第46章 美女と野獣
海へ近づくにつれて、民家の件数は増えてゆき、いくつかの店が立ち並ぶ界隈にモモの目指す病院はあった。
小さな村にふさわしく、年季を感じさせる こじんまりとした病院。
モモが病院に近づくと、ちょうど中から顔色の悪い中年の男が、妻と思わしき女性に支えられて出てくるところだった。
男は足どりもおぼつかない様子で、げっそりとしていた。
本来なら、入院して治療を受ける容態なのに、それをしないところを見ると、村の状況が想像できる。
初めて会った村人だが、モモは話をすることなく病院へと入っていく。
「……ッ」
院内に入った瞬間、地獄絵図のような光景に言葉を失う。
病室どころではない。
診察室や廊下にいたるまで、キラーと同じような症状の人たちが、ところ狭しと寝かされていた。
足の踏み場もないような廊下を、数人のナースや家族と思わしき人たちが看病している。
「あ、あの…ッ」
声をかけるのも躊躇われるくらい、疲れ果てたナースのひとりを、モモは思い切って呼び止めた。
「…はい、なんでしょう。」
呼びかけに応じてくれたナースは、目の下に隈が色濃く残っており、病気とは違う意味で倒れそうだ。
「わたし、旅の者なんです。今、この村で、なにが起こっているんですか?」
村の中ですら、この患者数だ。
キラーを診てもらうことは難しいだろう。
だったらせめて、病名だけでも教えてもらいたい。
病名がわかれば、モモにもできることがあるから。
しかし、ナースが口にしたことは、モモの期待を大きく裏切るものだった。
「……わかりません。」
「え…!?」
「なにも、わからないんです…。」
つまり、医者の目をもっても、原因がわからないということか。
でも、医者ならば、なにか思い当たることがひとつくらいあるはず。
「すみません、お医者様に会わせていただけませんか?」
忙しいのは重々承知だ。
けれど、ほんの少しでいい。
話を聞かせてもらいたい。
「…おりません。」
「え……?」
ナースが震える声で答えた。
キッドは“医者が役に立たない”そう言った。
それは、つまり…。
「先生は…、お亡くなりに…なりました…ッ」
この村の医者は、もうどこにもいない。