第46章 美女と野獣
駆け足で戻ってきたモモは、不気味なほど静まり返った村をうろつく。
人の気配がしないと思っていた村だったが、家に近づいてみると、中から悲しげなすすり声が聞こえてきた。
それに気がつかなかったのは、おそらく家の中とはいえ、人数が少ないからだ。
「たぶん、病人はひとところに集まっているんだわ。」
伝染病の患者がでた場合、対象者を集めて隔離するのは当然の処置だ。
「きっと、病院ね…。」
村のどこかに病院があって、そこに集められているはずだ。
でも…。
医者はいるが、役に立たない。
キッドはそう言っていた。
だとしたら、病院はもう…。
「いいえ、決めつけちゃダメね。」
最悪の状況を予想した自分を叱咤する。
まだ、そうと決まったわけじゃない。
まずは現場に行ってみなくちゃわからない。
病院の場所を誰かに聞きたかったが、家の中にいる人たちがあまりにも悲しげに泣いているため、戸を叩くのが躊躇われた。
それほど広くない村だ。
ひとまず自分で探してみよう。
民家を離れ、ひとりで歩いていくうちに、言い表せぬ不安が広がっていく。
思わずキッドに大口を叩いてしまったが、果たして自分になにができるだろう。
歌でも治癒できない病を前に、なにか役立つことがあるのだろうか。
もし、ここにローがいたならば、病の正体をすぐに解析し、適切な処置も施せるはず。
だけど、今ここに彼はいない。
無意識に左の薬指を撫で、あるはずのない指輪の感触を探す。
(……大丈夫。)
世界一の、薬剤師になりたい。
そのために、たくさん勉強してきたじゃないか。
自分にできることは、きっとある。
例えば、初期症状の患者なら、歌でも救えるかもしれない。
たくさんの患者を診れば、必要な薬もわかるかも…。
『村の連中とは関わるな。』
そんなふうに、見捨てる人間になってはいけない。
キッドに憤りを感じることで、心の中を塗り潰そうとする不安を乗り切ろうとした。