第46章 美女と野獣
「…お前こそ、バカなのか?」
「え…?」
当然の結果を主張したまでだが、非難されるように冷たく言い放たれ、少しだけ狼狽えた。
「医者に診せられるくらいなら、お前みたいな女を頼るものか。」
なにを…と思わなくもなかったが、言われてみればその通りだ。
キラーの容態は、目に見えて悪い。
放置しておけばどうなるかということくらい、医療に携わる者でなくとも想像がつく。
けれど、キッドやホーキンスの口振りからは、彼を医者に診せたとは考えられない。
「この村には、医者がいないの?」
そうとしか思えなかった。
「いいや、いる。」
そう答えたのは、玄関の戸口に立っていたホーキンス。
「…じゃあ、診てもらえなかったんですか?」
キラーが海賊だから、診てくれなかったのだろうか。
モモは病人に海賊もなにもないと考えるが、残念ながら海賊を差別する人がいるのも事実。
けれど、意外だ。
キッドのように仲間想いで気が短い男なら、診療を拒否する医者を、力ずくでも言うことをきかせそうなものなのに。
しかし、その回答はモモの考えとまったく違うものだった。
「役に立たねぇんだよ。」
「役に立たない…?」
それは、どういう意味なのだろう。
よほど腕がなくて信用できないのか。
「医者だけじゃねぇよ。あの村の連中は、もう、ほとんど…。」
ほとんど…?
嫌な予感がした。
異様な雰囲気の村。
見かけない村人。
医者がいるのに、診せられない。
重篤のキラー。
どうして2人は、自分の船に戻らないのか。
いいや、戻れない。
その理由は…?
「ホーキンスさん、わたし、この村に来てからホーキンスさんとキッドにしか会っていないんです…。村の人は、いないんですか?」
「村人は、いる。」
「だったら、どうして…。この村で、なにが起きているんですか?」
尋ねながらも、モモは半ば予想がついていた。
でもどうか、その予想が外れればいい。
「この村は…村人は、ほとんどが動けない。」
どうして、とは聞けなかった。
聞くのが、怖くて。
「…病だ。みな、キラーと同じ症状で伏せている。」
ああ…。
どうしていつも、当たってほしくないことばかり当たってしまうのだろう。
ロー、わたし、どうしたらいい?
伝染病だ。