第46章 美女と野獣
モモの歌で治らない病は、当然ある。
例えば癌や腹膜炎など、外科手術が必要なものがそれだ。
癒やしの歌は聞き手の自己治癒力を高める歌なので、オペをしなくては治らない病の場合、ほとんどお手上げ状態になる。
今回のケースのように…。
「ダメだわ…。この人は、ちゃんと医者に診てもらわないと。」
薬剤師の知識じゃ、どうにもならない。
医者の診断が必要だ。
キラーに再びマスクを被せたところで、待ちくたびれたキッドが家の中に入ってきた。
「治療は終わったのか? キラーはどうした!」
治ったのかと尋ねてくる彼に、モモは首を横に振る。
「残念だけど、わたしじゃ力になれないわ。村へ行って、医者に診てもらいましょう。」
「なんだと? お前は、薬剤師なんじゃなかったのか!?」
そのとおり。
モモは“薬剤師”だ。
「…薬剤師っていうのは、医者の診断をもとに薬を作るのが仕事なの。もちろん、少しくらい医療の知識はあるけど、わたしは医者じゃない。」
「だからなんだ。」
「彼の病名は特定できないけど、手術が必要っていうのは確かなの。」
皮肉にも、モモの歌が効かなかったことがそれを証明している。
「だったら、お前がすればいい。」
「…あなた、わたしの話を聞いていた? わたしは、医者じゃないの。」
モモは薬剤師だけど、なるべく知識を身につけようと、独学で医術についても学んだ。
けれど、それはあくまで知識だけ。
技術というものは、どう足掻いても手に入れられない。
「医者でもない素人が、手術なんてできるわけないわ。」
料理で魚を捌くのとは訳が違う。
相手は生きた人間。
数ミリの誤差が命を奪う世界だ。
「だから、医者を探しましょう。小さな村だって、ひとりくらい医者がいるはずよ。」
力になれないことは悔しいが、これはもう、医者に託すしかないのだ。