第46章 美女と野獣
キッドの後を追うようにして、ホーキンスも家の外へ出た。
残されたのは、モモとキラーの2人きり。
モモは改めてキラーのマスクの紐を解き、彼の頭からそれを外した。
顔を見られたくないという気持ちを考慮し、病状だけに意識が向くように努める。
「黄疸が出てる…。」
それも、眼球や皮膚の色から見て、かなり進んでいる。
「肝機能に問題があるのかしら…。」
黄疸の原因は、肝臓の病の可能性が高い。
また、症状が重い場合は、早めの処置が求められる。
「…熱もある。」
ならば、肝炎だろうか。
それならば…と衣服を捲り、腹部を触った。
「ぐ…ぅ…ッ」
少し押しただけなのに、キラーが苦しげに呻く。
「お腹がすごく張ってる。やっぱり肝炎の特徴だわ。」
けれど、モモは医者ではないから、確実にそうとは言えない。
薬剤師にとって、診断というのは命に等しい。
薬は時として、毒にもなりうるからだ。
その判断が、自分にはできない。
「でも…、わたしにはできることがあるわ。」
自分は決して、無力ではない。
「わたしには、歌がある。」
病が特定できなくとも、治療を施すことができるのだ。
セイレーンの力で。
ホーキンスとキッドが外に出てくれてよかった。
いくら敵ではないといえ、仲間たち以外の前で力を披露することは躊躇われる。
やはり自分は、異端なのだ。
だけど今は、そんなことを考えている場合ではない。
モモは大きく息を吸い、癒やしの歌を唄い始めた。
「……?」
異変に気づいたのは、癒やしの歌を唄い終えた時だった。
歌の効果を得て、回復に向かうはずだったキラー。
その彼の症状が、ほとんど回復していなかった。
黄疸は引かず、熱も下がらない。
「…どういうこと?」
モモの歌は魔法ではないが、体内の炎症くらい、たちどころに治す力がある。
「歌の力が効かない? どうして…。」
一瞬、セイレーンの力がなくなってしまったのかと疑ったが、そうじゃない。
原因はおそらく…。
「肝炎じゃ…ない?」
診断が、違うのだ。