第46章 美女と野獣
(この人、どうしてマスクなんか…?)
一切の人相を隠すかのようにマスクを被った男に、疑問を持たずにはいられなかったが、彼の息は荒く、苦しげに胸を上下させている。
マスクなんかしていたら、なおさら良くない。
早く外してあげないと…。
通気性の悪いマスクを外そうと、頭の後ろに編み上げられた紐へと手を伸ばす。
パシッ!
「やめろ。」
紐を掴みかけた手を、キッドが払った。
「……どうして?」
払われた手がジンと熱くなったが、それよりも止められたことに驚いた。
「キラーはマスクを外すのを嫌がる。お前なんかが触れていいもんじゃねぇ。」
キラーというのは、この男の名前らしい。
けれど、今はそんなことどうでもいい。
「そう…。じゃあ、あなたは彼を見殺しにするのね。」
「…なんだと?」
刃のように鋭い眼差しが、モモを射る。
しかし、モモは動じなかった。
「だって、そうでしょう? あなたはわたしに、彼を診させてくれないんだもの。」
病状を診るにあたって、顔色というのは非常に重要だ。
青いか、赤いか。
それだけでも大きな違いである。
また、口内の様子や眼球の動き。
病を特定する症状は、いくらでもある。
「それをあなたは見せないと言うなら、見殺しにするも同じだわ。」
ただでさえ、モモは医者ではない。
判断材料は少しでも多く欲しい。
「ずいぶんと生意気な口を利くじゃねぇか、小娘。」
「…わたしは医者じゃないけど、小娘でもないわ。あなたこそ、おいくつ?」
凄んでみせるけど、彼はローより幾分若く見える。
ちなみに、「わたしは23歳だけど」と付け加えると、少し目を見張って渋い顔をしたので、おそらく近い年齢なのだろう。
「歳なんざ、関係ねぇだろうが!」
「……。」
そもそも、そっちが小娘呼ばわりしてきたのに。
「落ち着け、ユースタス。マスクについては、モモの言うとおりだ。治療のためだ、納得しろ。」
「……ッ」
見ていられないとばかりにホーキンスが口を挟み、キッドは口惜しげに黙り込む。
「どうしてもと言うならば、俺たちが外へ出ればいい。」
そうすれば、不必要にキラーは顔を見られることもない。
「チ…ッ!」
反論する気がなくなったのか、キッドは苛立たしげに外へ出ていった。