第46章 美女と野獣
空のグラスと交換に、追加の酒を注文をしたメルディアは、唐突な質問をした。
「ねえ、ロー。あなた、後悔していることってある?」
「は? …なんなんだ、さっきから。」
酔っているのかと思ったが、彼女はとてつもなく酒に強いので、そういうわけでもないだろう。
「ねえ、あるの?」
なおも問いかけてくるメルディアに、ローはため息を吐きつつも答えてやる。
「……ねェよ。」
もし、あの時こうしていたら…なんていう“もしも話”は、考え出したらキリがないくらいある。
コラソンやエース、そしてモモのこと。
けれど、どんなに悔やんでも時間は巻き戻らない。
だからローは、悔やむよりも先へ進むことにしている。
意志を継いだり、取り返したり、進む道はいくらでもあるのだから。
「そうよね。あなたって、そういう男だもの。」
こちらの答えがわかっていたのか、メルディアは自嘲気味に微笑んだ。
「お前は、あるのか?」
ローの知るメルディアは、後悔なんてしない女だった。
しかし、数年ぶりに会う彼女は、大きく印象が変わっている。
「…私ね、あの子の選ぶ道を応援したのよ。」
それは忘れもしない、6年前のあの日。
別れを選んだモモを、陰ながら支えた。
なにがあっても、自分だけは味方だからって。
「でも、本当にそれが…正しかったのかしら。」
もし、あの時、モモを説得していれば。
モモの道を変えられていれば、隣に座る彼も、大切なものを失わずにすんだだろう。
正真正銘、コハクの父親を名乗り、3人で本当の“家族”として、生きていけたのに。
もし、あの時、自分が味方にならなければ…。
「ロー、私…後悔しているのよ。」
だから次は、後悔したくない。
「お前にしては、やけに感傷的じゃねェか。」
らしくない。
そう言われた気がした。
「ええ、そうね。少し、酔ったのかもしれないわ。」
酒にじゃない。
めまぐるしく変化する運命に。