第46章 美女と野獣
夜も更け、クルーたちは思い思いの休息をとっていた。
ローはひとり、酒場で蒸留酒を傾ける。
「お隣、いいかしら?」
グラスを片手に近づいてきたのは、亜麻色の髪をたなびかせたメルディア。
いいとも悪いとも言っていないが、彼女は勝手に隣の椅子を引いて座る。
「…なんの用だ?」
「別に? しばらく会わなかったから、少し話がしたかっただけよ。」
つもる話があるわけでもないし、できればひとりにしてほしい。
けれど、メルディアはモモの友人だというから、下手に冷たい態度もとれず、ローはため息を零しただけで、なにも言わなかった。
「そういえば、宿敵を倒したそうね。おめでとう。」
「…なぜお前がそれを?」
ローとルフィがドフラミンゴを倒したことは世間の知るところではあるが、あの男が宿敵だったということを知る者は少ない。
「ふふ、情報は商売の要よ。」
本当は、モモから聞いた。
そのために彼女は、ローと別れたのだから。
大切な記憶を消してでも。
「ねえ…。」
グラスを傾け、中身をひと息に煽ったメルディアは、こちらに視線を向けぬまま呟いた。
「なんだ。」
「あなた、本当に覚えていないの…?」
空のグラスの氷が解け、カラリと音を立てる。
「…なんのことだ。」
「……。」
質問の意味を理解できないローに、メルディアは砂を飲んだような気分になる。
(本当に、覚えていないのね。)
焦げるような恋情も、鉄より固い絆も。
宝石のようなそれらは、どれもメルディアが憧れてやまないものだ。
「私ね、ロー。あなたがモモを好きでいてくれることが、すごく嬉しいのよ。」
先ほどの質問はどこへいったのかという会話の流れに、ローは疑問を覚える。
「意味がわからねェ。」
「ふふ、そうでしょうね。」
ローは知らない。
モモの過去も、メルディアの想いも。
いったい何度、ローをひっつかまえてモモの島へ連れて行こうと思ったことか。
その度、モモの涙を思い出して踏みとどまった。
だけど、そうすればよかったんだ。
そうしたら、2人の時間はもっと早くに流れたのだから。