第46章 美女と野獣
メルディアの人柄を、ローは多少なりとも知っている。
そう、例えば…一度決めたことを絶対に曲げないところとか。
「お前を連れていかなきゃ、本当に渡さない気か。」
「ええ。私がどういう女か、あなたは知っているでしょう?」
妖艶な笑みを見せる彼女は、昔と変わらず、取引きを得意とした海賊の顔。
けれどその表情は、ローの記憶よりも優しげに見える。
メルディアを変えたのは、おそらくモモなのだろう。
自分と同じように。
「…いいだろう。」
「「せ、船長!?」」
ローの答えに、シャチたちが仰天する。
「ただし、足手まといにはなるなよ。」
「もちろんよ。」
取引成立…とばかりに、メルディアはビブルカードを手渡す。
「出航は明日の朝だ。それまでに準備をしておけ。」
本当なら今すぐにでも発ちたいところだが、朝に延ばしたのはメルディアへの気遣いと、仲間たちのガス抜きのため。
「で、でも船長…。」
「なんだ。俺の決定に文句でもあるのか?」
なおも言いよどむ仲間たちを一瞥した。
「い、いや…。ないッス…。」
彼らがなにを心配しているのか、わからないでもないが。
「私の同行を認めてくれたお礼に、今夜の宿と食事はこちらで手配するわ。」
仕事の早いメルディアは、すでに酒場の上階にある宿泊部屋を人数分手配し、出せるだけの食事をありったけ提供するよう、店主に話をつけていた。
「好きなだけ、食べて飲んでちょうだい。」
「サンキュー、メル。オレ、こんな状況だけど、メルと旅できて嬉しいよ。」
なにも知らないコハクは素直に喜び、食事の運ばれてくるテーブルに向かった。
「ちょ、ちょ、メル姉さん!」
「なによ。」
コハクが離れたところで、すぐさま呼び止められる。
「あのさ、コハクに昔のことは…秘密にしてくれよ。」
「昔のこと?」
なんのことかと考えて、シャチたちの言いたいことに思い当たる。
「もしかして、ローと付き合ってたこと?」
「シ、シー! 声がでかいッス!」
秘密にするもなにも、コハクはともかく、モモはとっくに知っている。
でも、それを教えてしまえば、ちょっとおかしなことになってしまう。
ローだけでなく、彼らの記憶もすっかり消えてしまっていることに、苦い想いが込み上げた。