第46章 美女と野獣
長身で表情が乏しく、まるで魔法使いのような出で立ち。
“魔術師”バジル・ホーキンス。
モモの数少ない友達。
村の気味悪さなど一瞬で忘れ、満面の笑みで駆け寄った。
「ホーキンスさん! お久しぶりです!」
かれこれ6年ぶりの再会に、嬉しさがこみ上げる。
「……。」
しかし、ホーキンスはというと、こちらをジッと見つめたまま黙り込んでいる。
(あれ…?)
まったく反応のないホーキンスに、モモの方も黙り込んだ。
(もしかして…ホーキンスさん、わたしのことを覚えてない?)
考えてみればそうだ。
モモにとっては忘れられない出会いも、ホーキンスにとっては長い旅のひと時。
あれからたくさんの出会いがあった彼には、モモの存在など些末なことに違いない。
一方的に友達だと思って話しかけた自分が、急に恥ずかしくなった。
「えっと、あの…。わたし、前にウォーターセブンで…。」
思い出してもらおうと説明しようとするが、はたして記憶に残っているだろうか。
「ふ……。」
しどろもどろになるモモの前で、ホーキンスが僅かに口角を上げた。
「説明の必要はない。覚えている。」
「え……。」
では、そのノーリアクションはなんなのか。
「じゃあ、なにか反応してくださいよ。わたし、バカみたいじゃないですか。」
「している。驚いていた。」
「え、驚いてました…?」
ホーキンスの表情筋は、6年前に増して死滅したらしい。
「それより、なぜここに? この村に住んでいるのか?」
「あ、いえ。この島に来たのは今さっきです。」
しかし、モモの言葉にホーキンスは首を傾げた。
それもそのはずだろう。
モモの姿は、まるで今、家から出てきたような軽装だ。
「その…、この前まで海軍に捕まっていて。親切な方に助けてもらったんですけど、なんか飛ばされて気がついたらここにいたんです。」
我ながら意味不明な説明だ。
けれど、ホーキンスは「そうか」とだけ言い、モモの頭をポンポン撫でた。
「生きていて、よかった。」
「……?」
6年の間に、記憶をなくしたローと再会したホーキンスが、自分の生死を案じていたとは知らないモモは、不思議そうに目を丸くした。