第10章 覚醒
その後の形勢はあっという間に逆転した。
モモという人質がいなくなったから、ローもシャチもペンギンも、水を得た魚みたいに、次々と敵を倒していった。
でも、一番の理由は、モモの歌による戦意喪失。
敵の大半が、戦いを放棄し、逃げ去っていった。
もしかしたら、愛しい誰かに会いに行ったのかもしれない。
そんな気持ちを乗せて、唄ったから。
アイフリードを含め、残った海賊を全て拘束した後、モモはローたちの傍で癒やしの歌を唄った。
アイフリードによって痛めつけられた傷が、戦闘による疲れが、みるみる治っていく。
「すげーな、モモ! 傷があっという間に治ったよ!」
「ついでに昨日の二日酔いも治ったッス!」
ローは傷痕も残らず修復した身体を見て、思い出した。
(そういえば、あの時も…--。)
猛毒クラゲに刺されたとき、死さえも覚悟したのに、数時間ほどで完治した。
「あの日、俺が倒れとき、毒を中和したのはお前の力か?」
「…うん。」
もし、この力が知られてしまっても、それが原因で利用されることになっても、それでも助けたかった。
今はもう、彼がそんなふうに思わないことをモモは知っている。
でも、ずっと秘密にしていたことを、ローは怒るだろうか。
「そうか…。お前はずっと、俺たちを守ってくれてたんだな。」
「え…?」
それは思いもよらない言葉。
「そうだろ? お前は陰ながら俺たちを支えてくれてた。」
「支えてただなんて…。わたし、ずっとみんなに隠してきたのよ?」
「だが、お前は唄ったじゃねェか。もし、あの時、倒れてたのが俺じゃなかったら、お前はどうしてた?」
もし、倒れてたのがローじゃなかったら…。
ベポだったら、
シャチだったら、
ペンギンだったら。
「…唄うわ。誰であっても、唄う。」
みんな、大切な仲間だ。
「だろ? お前は、ちゃんとわかってたんだよ。大事なモンの順位ってやつを。」
自分の安全より、仲間の命が大事。
それがきちんとわかっているから、そうやって唄うことが出来るのだ。
「守られてるだけじゃない。そうやってお前は、一緒に戦ってたんだな。お前なりの戦い方で。」