第46章 美女と野獣
「とにかく…、この森から出なくちゃ。」
先ほど一瞬 島の全貌を見た時、村のような集落があった気がする。
それが見間違いではなければ、ここは有人島のはず。
身ひとつで飛ばされたため、手持ちの荷物はなにもない。
日が沈んでしまう前に、なんとか森から出たかった。
「まずは川を探しましょう。」
川があれば、下流に向かって進むことができる。
緊急事態ともいえる状況なのに、つい癖で、あたりの植物を観察しながら進んでしまう。
「あ、ヘビイチゴ。」
茂みにいくつもの赤い実を見つけ、むしり取って口に入れた。
イチゴとは名ばかりで、味はほとんどしない。
それでも、空っぽのお腹を少しでも満たしておかねば。
「ヘビイチゴがあるってことは、ここは春島…もしくは夏島かしらね。」
気温も暖かいし、寒さで体力を奪われることもなさそうだ。
最悪の場合、野宿も考えなければならない。
土の湿り気を見ながら、川を探して森をさ迷った。
しばらくして、緩やかなせせらぎが聞こえてくる。
「川だわ…!」
思ったよりも早く見つけられて、安堵の息を吐いた。
川に手を入れ、冷たさを楽しむ。
「この分なら、村へたどり着くこともできそうね。」
半ば自分に言い聞かせるように呟き、川の水で顔を洗う。
ガサリ…。
「……!」
茂みが動く音がして、モモはビクリと顔を上げる。
猛獣か、それとも山賊か。
緊張で身体をこわばらせたが、草むらからひょっこり顔を出したのは、黒目が可愛い白い獣だった。
「……キツネ?」
大きな耳に、ふさふさな尻尾。
少し犬にも似た獣は、おそらくキツネだ。
「白いキツネなんて、初めて見たわ。」
そもそもモモは、キツネが生息する島に住んだことがないのだけど。
見ればキツネの背後には子ギツネが数匹隠れている。
水を飲みにきたのだろうが、親キツネはモモを警戒したままだ。
「ごめんね、邪魔をして。」
可愛らしい親子に和みながら、モモは静かに立ち上がり、川の流れを見ながら下流へと向かった。