第46章 美女と野獣
ローたちが自分を取り戻そうと行動を起こしているとは露ほども想像していないモモはというと、現在、とんでもないところにいた。
(なにが…、起こっているの…!?)
ライラという女性に、いきなり“吹っ飛ばされた”モモは、そのままの勢いで、海の上を飛んでいた。
彼女は、なにかの能力者だったのだろうか。
ものすごいスピードを維持したまま、モモはどこまでも飛ばされる。
(いったい…、どこまでいくの!?)
目的地がわからず 為す術もないが、まさか海の上にポチャンと落ちてしまわないだろうか。
そんな恐怖で冷や汗ばかり掻いていたが、人間とは時間の経過と共に慣れていくもの。
飛ばされ続けてほぼ1日。
飛ばされ疲れて、ついつい微睡みかけた頃、モモの身体はようやく降下し始めた。
「んん…。」
まず目に入ったのは、とある小さな島。
島の森の中に、吸い込まれるように近づいていく。
(え、待って……。)
この勢いで着陸した場合、自分は無事でいられるのだろうか。
地面に叩きつけられて、運が良ければ骨折。
でも、運が悪ければ……。
サーッと血の気が引く。
(え、わたし…、死ぬの!?)
ライラの意図は謎だが、せっかく海軍の船から抜け出せたのに、その行く末が墜落死だなんてヒドすぎる。
そんなことをぐるぐる考えていたら、あっという間に地面が迫ってきた。
「きゃ…ッ! だ、誰か…!」
助けを求めて、きつく目を瞑る。
思い描くのは、愛しき医者の姿。
でも、彼はここにいない。
そして死んでしまえば、思い出すこともできなくなる。
絶望の最中、胃が浮くような感覚と「ベコン!」という衝撃音が響く。
「え……?」
思わず目を開けると、地面に大きな肉球のマークがつき、その上にふわりと着陸した。
「助かっ…た…?」
自分の身体をあちこち触って確かめてみるが、特に痛むところはない。
とりあえず、墜落死だけは免れたようだ。
「でも、ここ…どこ?」
誰になく呟いてみたけど、返ってきたのは小鳥の囀りだけだった。