第46章 美女と野獣
海の真ん中で2つの海賊は航路を分かち、サクヤは徐々に小さくなっていく黄色い潜水艦を見つめていた。
はたして彼らは、S級ランクであるセイレーンを取り戻すことができるのだろうか。
(これ以上はもう、私が関わるこではないな。)
サクヤのすべきことは、たぶんもうない。
これから先は、彼らの物語。
「珍しいな。刀はめったなことがなきゃ、造らないんじゃなかったのか。」
後ろから声を掛けてきた男を、サクヤは振り返らなかった。
姿を確認しなくとも、誰だかわかったから。
刀を3本も所持する浮気者。
この船の、最強の剣士だ。
「その通り。私はめったなことでなければ、刀は打たぬ。」
だからこれは、めったなことなのだ。
「あのガキが、そんなに気に入ったのか?」
「そういうわけではない。」
隣までやってきた剣士が、「ならば、なぜ?」と目で問いかけてくる。
「私は、羨ましいのだ。」
「羨ましい? アイツらがか?」
そう、羨ましい。
「モモは、私と同じ運命にありながら、私にないものをたくさん持っておる。」
だから、手を出さずにはいられない。
彼らの未来が、見てみたいから。
証明してほしい。
政府の力に負けず、幸せになれるということを。
「…らしくねぇな。」
「そうか?」
確かにそうかもしれない。
自分は長らく、人と関わることを避けて生きてきたから。
けれど、一度関わってしまえば、心を離すことは難しい。
「で、お前が羨ましいことってのは、なんだ?」
それは…。
「秘密じゃ。」
彼にだけは絶対言わない。
言ったら最後、欲しくなってしまうから。
羨ましい。
好きな人と共に生きて、新しい命を身に宿すことが。
好きな人のために、命をかけられることが。
それはいったい、どんな気持ちなのだろう。
いつか聞けるだろうか、彼女に。
だからどうか、無事に再会してほしい。
そんな願いを、刀に込めることしかできないけれど。
ああ、でも。
この船に乗らなければよかった。
そうすればこんな想い、気がつかずにすんだのに。