第46章 美女と野獣
(鬼丸……。)
身の丈ほどの長さがあるそれは、まだまだ使いこなせないだろう。
それでも、朱色の鞘に収まった刀をコハクは手に取った。
受け取った刀から、じんわりとした熱と、禍々しいともいえる気配を感じる。
「この刀…、普通の刀と違う…?」
「うむ、よくわかったな。それは妖刀じゃ。」
妖刀!?
ぎょっとして手元の刀をまじまじと見つめ直す。
刀の知識に疎いコハクには、普通の刀と妖刀の違いがいまいちわからない。
そういえば、ローの鬼哭やゾロの使う三代鬼徹も妖刀だという。
2人のような使い手でなければ扱えない刀なら、大問題である。
自分はまだ、ひよっこだ。
「案ずるでない。妖刀と言えば仰々しく聞こえるじゃろうが、要は少しひねくれ者の刀だというだけよ。」
「ひねくれ者…。」
微妙な例えだが、自分も素直な子供とはとても言い難いので、一気に親近感を抱いた。
「とはいえ、訓練は必要じゃ。医術だけでなく、しかと学ぶとよい。」
「ああ。」
オレの、刀。
強くなろう、この刀を大きいと感じなくなる その時までに。
モモやローを、守れるくらいに。
「サクヤ、ありがとう。」
初めて、心からのお礼が言えた。
微笑みながら頷くサクヤの眼差しが、どこか母親のようで、コハクは堪らなくモモに会いたくなった。
「ああ、そうそう。これも渡しておかねば。」
忘れるところだった…と手渡された小さなものを、コハクは反射的に受け取った。
「なんだ…って、おい、これ!」
手のひらの中身を見て、コハクはあからさまに顔をしかめる。
それは、小瓶に入った蜂蜜色の液体。
あの怪しげな秘薬だ。
「いらねーよ、こんなの!」
この薬が巻き起こした事件を忘れるには、まだ記憶が新しすぎる。
「まあ、そう言わずに…。いずれ役立つ時がくるかもしれん。」
突き返そうとしてくるコハクの腕をかわし、サクヤは「返却不可」とばかりに頑として受け取らなかった。