第46章 美女と野獣
コハクから真砂を受け取ったサクヤは、あの後 街の鍛冶屋へ赴き、作業場を借りて刀を打った。
「おぬしが見つけた真砂は、稀に見る鉄の多さじゃった。よくぞまあ、見つけたものよ。」
「いや、あれは本当に偶然で…。」
ヒスイが川に流されなければ気づかなかったし、モモの趣味が土いじりでなければ持って帰ろうとも思わなかった。
「コハク、私は巡り合わせというものは、すべて意味のあるものと思っておる。」
「意味?」
「そうとも。お前が真砂を見つけたのは必然であり、私が刀を打つことも運命であった。」
刀は、持ち主を選ぶ。
その材料もそれ然り。
「そして、モモが海軍に連れ去られたことも、それもまた運命じゃ。」
「な……ッ!」
そんなことあるか、それじゃあ母さんは、捕まるために生まれたみたいじゃないか!
そう叫ぼうとしたコハクを、サクヤは眼差しだけで押しとどめる。
「おぬしは心のどこかで、モモが連れ去られたのは自分のせいだと思っておるじゃろう?」
「……!」
つい先ほどまで考えていたことを当てられて、声が出なかった。
「ふふ、当たりか?」
そんなコハクの様子に、サクヤは悪戯っぽく笑い、優しく頭をポンと撫でた。
「じゃがのぅ、コハク。おぬしがどのような選択をしたとて、モモは遅かれ早かれ、おぬしらのもとを去ったじゃろう。」
政府の怖さは、嫌というほど知っている。
だからこそ、わかるのだ。
「悔やむでない。悔やむくらいなら、強くなるがいい。この刀は、おぬしを選んだ。」
弱さを悔やむくらいなら、今から強くなればいい。
幸い、彼には良き師がいるようだから。
この小さな少年に、サクヤの言葉が届いたかどうかはわからない。
けれど、彼の瞳には、消えかけていた炎が再び灯っていた。
「この刀の、名前は?」
「…鬼丸じゃ。」
彼の身近にある、兄弟刀から一字とった。
これもまた、運命だろうか。