第46章 美女と野獣
差し出された刀をよくよく眺めたが、どうしてもコハクには心当たりがない。
「どういうことだよ。オレは刀の材料なんか見つけてない。」
刀は欲しかったし、一生懸命探したのだ。
記憶違いであるわけがなかった。
「サクヤだって知ってるだろ。鉱石は見つからなかったんだ。」
もしこれが、サクヤの優しい嘘なのだとしたら、ありがたいが遠慮したい。
かけがえのない武器を、ズルをしたみたいに手に入れるのは嫌だから。
しかし、サクヤはそんな疑いを晴らすかのように言う。
「なにを言っとる。これはまさしく、おぬしが見つけたものじゃ。」
「いや、だって……。」
「ほれ、思い出せ。おぬしが私にくれたものがあったろう?」
サクヤにあげたもの…?
コハクは眉根を寄せて記憶を探った。
はた迷惑な怪しい薬を貰いこそすれ、なにかをあげただろうか。
ああ、そうだ。
もともとあの秘薬は、コハクが山で採った土と交換に貰ったものだった。
……土?
『その土は、園芸に向かぬよ。』
そういえば、サクヤはどうしてそんなことを知っていたのだろうか。
まるでその土の真価がわかっているみたいに。
「どうやら、材料の正体がわかったようじゃのぅ。」
「もしかして…、あの土か?」
「その通り。」
正解を当てられて、サクヤは満足げに頷く。
「でも、土から刀ができるわけない。」
刀は鉄からできるもの。
いくら知識の少ない自分だって、それくらいはわかる。
「無論、刀は鉄から造るもの。ただの土から刀は作れなんだが、おぬしがくれた土は、普通の土とは違う。」
コハクは鉄を採るには鉄鉱石からだと思っているようだが、なにも鉄は、鉱石にしか含まれているものではない。
そう、例えば…。
「おぬしが見つけたのは、真砂じゃった。」
「真砂…?」
「つまりは、砂鉄じゃの。」
砂鉄を踏鞴で熱すると、玉鋼ができる。
その玉鋼こそ、刀の材料となる最上の素材だ。
コハクは知らず知らずのうちに、刀の材料を手にしていたのだ。