第46章 美女と野獣
「…なにしてんだよ、こんなところで。」
ここはコハクたちの海賊船。
サクヤには用のない場所だ。
心の内を覗かれたような気がして、あえてぶっきらぼうに言う。
しかし、サクヤはそんなコハクの態度を気にすることもなく、おおように頷いた。
「うむ。おぬしらとは、これから別行動だと聞いたのでな。だから、別れる前に、渡しておかねばならぬものがある。」
「渡しておかなきゃいけないもの?」
ローではなく、自分に?
訝しんで聞き返せば、サクヤは「ああ、そうとも」と外套の中から“あるもの”を取り出した。
「これじゃ。」
「……! これ……。」
朱色の鞘に、柄巻は漆黒。
楕円形の鍔の縁には、まるでローの鬼哭と同じように、白い毛皮があしらってある。
刀だ。
コハクがこの街で、手に入れたかったもの。
「これは今日から、おぬしの刀じゃ。」
「……!」
刀から漂う威圧感。
これは、そんじょそこらの武器屋で扱っている刀ではなく、サクヤが自ら打ったものなのだろう。
でも…。
「受け取れないよ。」
「なぜじゃ。」
「だって、それじゃあ約束が違うだろ?」
確かに、コハクは自分の刀が欲しかった。
それも、自分だけの特別なものが。
サクヤに刀を打ってほしいと頼み込んだのは、一昨日のことだ。
でも、それには条件があったはず。
「オレは結局、刀の材料を見つけられなかったじゃないか。」
条件は、コハク自身が刀の材料である鉱石を見つけ出すこと。
それができたら、刀を打つとサクヤは約束してくれた。
けれど、コハクは鉱石を見つけることができず、きっとまだ刀を持つ資格がないのだと諦めた。
「サクヤの気持ちは嬉しいけど…、約束は約束だ。受け取るわけにはいかない。」
強くなりたいし、それには武器も必要だ。
だけど、約束を違えるような男にはなりたくない。
そんなコハクを見て、サクヤは ふふっと微笑む。
「おや、なにを勘違いしておる。おぬしはちゃんと、材料を見つけたではないか。」
「……え?」
そんなこと、まるで見当がつかなくて、コハクは数度瞬きをした。