第46章 美女と野獣
一方、目的が定まった海賊同盟の行動は早かった。
ハートの海賊団はメルディアを、麦わらの一味は海軍の船を目指すため、一時の別れを選ぶ。
しかし両海賊の間に、しんみりとした別れなどあるはずもなく、慌ただしく時は過ぎていく。
そんな中、コハクは船に荷物を運び入れながら、ひたすらに後悔していた。
(あの時、オレが母さんの傍を離れなかったら…。)
昨夜、モモと2人で山から灯籠を流した。
ずっと胸に秘めていた想いを吐き出し、モモへとぶつけた。
モモはその想いを受け止め、ひとりで考えたいことがあるから…と、自分を先に帰し、そして違う道から山を下りた。
それが、モモと過ごす最後の時だとは思いもせずに。
もし、コハクが想いを告げずにいれば。
もし、モモをひとりにしなければ。
モモは海軍に見つからず、自分たちも無事に海へ逃げ延びていたかもしれない。
そんな“もしも話”は、考えたって仕方のないことだとはわかっている。
けれど、考えずにはいられないのだ。
例えば、モモのためを思って無理に島から連れ出したけど、それすらも本当に正しかったのかと。
(いや、違う。それが悪かったんじゃない。連れ出さなきゃ、母さんはローの傍にもいられなかった。)
モモの幸せは、ローの隣にある。
それはもう、絶対だ。
だから、悔やむべきは…。
(オレが、弱かったからだ。)
連れ出したのが悪いんじゃない。
悪いのは、モモを守ると誓ったのに、それを守れなかった自分自身。
どこかで思っていたのだ。
モモのことは、ローが必ず守ってくれると。
けれど、結果はどうだ。
モモの決断により、自分たちの命は助かった。
でも、選択しだいでは、自分はモモだけでなく、ローも失っていたかもしれない。
自分が、弱いばかりに。
「クソ…ッ」
運んでいた木箱を、八つ当たり気味にドカリと乱暴に下ろした。
「なんじゃ、らしくないの。」
「……ッ!」
ふいに背後から声を掛けられ、不覚にもビクリと小さく跳ねた。
「……サクヤ。」
振り返ると、モモと同じくホワイトリスト手配者であるサクヤがいた。