第46章 美女と野獣
まるで遊びに出かけるかのような誘いに、モモは一瞬なにを言われたか理解ができなかった。
そして、質問を理解した途端、勢いよく頷きそうになる。
でも、待って。
「なぁに、出たくないの?」
すぐに答えられないモモに、ライラは不思議がって首を傾げた。
「…出たいわ。それは、もちろん。」
だけど、ここは海の上。
「でもわたしは、戦う力も…航海術だってないもの。」
ライラの力を借りて脱出しても、再び捕まるか、大自然の力を前に野垂れ死ぬかのどちらかだろう。
「そうなの? おかしな話ね、セイレーンなのに。」
「……。」
セイレーンだからって、なんでもできるわけじゃない。
海軍も政府も自分になにを期待しているか知らないが、モモは普通の人間なのだ。
「うーん。あたしもやることがあるし、あんたを連れては行けないわ。」
彼女の目的はよくわからないが、戦う力のないモモを連れて行けないのは当然だろう。
だけど、迷う。
無茶を承知で、この船から出してもらおうか。
そうしたらまた、ローに会うこともできるんじゃないか。
(そんなの、無理ね…。)
ここは新世界。
航海術もログポースも持たない者が、無事にどこかの島へたどり着くなど、そんな奇跡は起こらない。
死んでしまっては、想うことも、願うこともできなくなる。
意気地なしと言われればそれまでだけど、モモには諦めることしかできなかった。
「そうねぇ…。でも、あんたには借りができたし…。」
そう呟くライラは、なにか考え込むように腕を組む。
「この“能力”は貴重だし、あと1回しか使えないんだけど…。まあ、しょうがないわ。借りを作りっぱなしにするのは、あたしの主義に反するし。」
「…なんの話?」
彼女がなにを言っているのかわからない。
「こっちの話よ。まあ、だから…、同じホワイトリスト手配者のよしみで、助けてあげるわってこと。」
「え…!?」
今、なんて?
そう尋ねようとした時、ライラは聞いた。
「ねえ、旅行するなら どこへ行きたい?」
「は……?」
なに言って……。
トン、と彼女の手が触れた。
その瞬間。
「ぱッ」という音と共に、モモの身体は跡形もなく消え去った。