第46章 美女と野獣
(あら……?)
よくよく見てみると、彼女には少し違和感がある。
髪型が以前と少し違うし、服装も色は黒だがスリットやデザインが大胆で、ミラが着るものとしては派手なドレスだ。
(別人…? にしては、似すぎてるわ。)
逸らされた彼女の視線が、見張りの兵士に向く。
耳栓をしている兵士は、彼女の侵入に気がついていないようだった。
そんな兵士に、彼女は背後から素早く距離を詰め…。
(あ……ッ)
モモが心で叫んだ頃には、彼女は帯刀していた剣を抜き、その柄で海兵の首裏を強く打ちつけた。
襲撃をうけた海兵は、気を抜いていたこともあり、呆気なく崩れ落ちる。
次々と起こる出来事に、モモは目を白黒させた。
「さて、と…。」
いとも簡単に海兵を沈めた彼女は、軽く手を叩きながらこちらに近づいてくる。
「ねえ。あんた、もしかしてセイレーン?」
モモの瞳を興味深く観察する彼女は、やはりミラではないようだ。
初対面のような口ぶりが、それを証明している。
今のところ彼女が何者かは不明だが、質問に答えようにもモモは言葉を紡げない。
彼女もそれに気がついて、モモがされている猿ぐつわを丁寧に解いた。
「あいかわらず、ヒドいことするわね。」
軽く咳き込むモモを見て、誰に向かってか毒づく。
「ケホ…、あ…ありがとう。」
自由になった口で、モモはとりあえず礼を言った。
「うん、いいの。で、あんたはセイレーンよね?」
再び投げかけられた質問に、今度は正直に頷いた。
彼女が何者であれ、敵船のど真ん中にいるモモにとって、これ以上状況が悪化することはないからだ。
「そうよ。」
「ああ、やっぱり? その瞳の色だもんね。」
セイレーンの特徴を知るあたり、彼女はホワイトリストの存在を知っているようだった。
「はぁ、困ったわー。」
美しい柳眉を寄せて悩み出すものだから、モモはつい尋ねてしまう。
「なにが困るの?」
「あんたよ。セイレーンが政府の手に落ちると、あたし困るのよね。」
「え…。」
驚いた。
その言い方だと、彼女はまるで政府の敵のようだから。