第46章 美女と野獣
やることがないと、ついつい もの思いにふけってしまう。
考えるのは、みんなのこと。
無事、出航することはできただろうか。
ローの傷は大丈夫なのか。
コハクは責任を感じていないといいが。
(ああ、いけない。)
もう幾度となく考えてしまうことを、頭を振ってやり過ごす。
(こんなんじゃ…これから先、やっていけないわ。)
どんなに辛いことがあっても、心はいつも仲間と共にある。
そう誓ったじゃないか。
再び窓から景色を眺める。
薄暗くなった空には、ぼんやりとした月が上がっていた。
どうやら、今は朝方ではなく夕暮れだったようだ。
このまま夜が訪れても眠れそうにない。
ちっとも疲れていない身体を伸ばし、ベッドに深く座り直した。
“ドアドア”
ガチャリ、という音にモモは部屋のドアへ目を向ける。
どうしたのだろうか。
夕食の時間には、まだ早い。
しかし、部屋にひとつしかないドアは閉ざされたままで、開いた形跡すらなかった。
そういえば、ドアが開いた音も、もっと違うところから聞こえてきた。
ふと視線を壁際に走らせると、モモはありえない光景を目にして、思わず固まる。
ドアがあるのだ、壁に。
いや、壁にドアがあるのは当然なのだけど、そうじゃなくて、ついさっきまでなんの変哲もなかった壁に、ドアができたのだ。
それも、壁の外側は海のはずなのに。
モモが理解できずに呆然としている間にも、ドアは開いて、誰かが入ってきた。
(え……?)
入ってきた人物に、モモは目を丸くする。
(……ミラ?)
突如出現したドアから入ってきたのは、夜を思わせる漆黒の髪と、血のような赤い瞳を持つ女性だった。
じっくりと見つめていると、視線に気がついたのか、目が合う。
すると彼女は、一瞬不思議そうな顔をした後、悠然と微笑む。
(笑った…? あのミラが…?)
モモの知るミラは、人形のように無表情な兵士だった。
ミラにあるまじき表情に驚き、モモは食い入るように彼女を見つめた。