第46章 美女と野獣
あれから、何日経っただろう。
開くことのない小さな丸窓から海を眺めていたモモは、頭の中で日にちを数えた。
モモがいる場所は、軍艦内にある簡素な一室だった。
牢獄にでも入れられるかと想像していたが、思いのほか待遇はいい。
とは言っても、この部屋から出ることは叶わず、常に見張りがついている。
見張りはモモの歌を聞かぬように耳栓をし、モモは唄えぬように猿ぐつわをされるという徹底ぶり。
食事の時にはさすがに外してもらえるが、それ以外、本当にやることがない。
しだいに明け方と夕暮れの判断もつかなくなってくる。
首の傷の治癒具合から、1週間と経っていないだろうが、モモは正確な日にちを数えることを諦めた。
(ヒマって、ある意味 拷問ね…。)
生まれてこの方、こんなにもヒマだったことはない。
本も読めず、話もできず。
ただ、無意味に時間の経過を感じるだけ。
ため息を吐きたくとも、噛まされた布はそれすらも許してくれない。
あの日以来、サカズキとは会わずにいる。
モモはこの部屋を出られないし、彼が訪ねてくることもなかった。
サカズキは海軍元帥なのだから、多忙だろうし、当然といえば当然だ。
まあ、こちらとしても会いたくはないけれど。
そういえば、ミラという名の彼女の姿も ここしばらく見ていない。
サカズキの部隊は、女性が極端に少ない。
けれど見張りはともかく、モモの身の回りの世話は女性兵でなければ支障があるので、当初はミラがモモの世話をしていた。
彼女はとにかく口数も表情も乏しく、一度食事の時に、殴られたために赤く腫れた頬が不憫で、「大丈夫か?」と尋ねてみたが、きょとんと首を傾げただけだった。
会話らしい会話こそできないが、歳が近そうなこともあり、モモは少なからずミラに親しみを感じていた。
だけど、そんな彼女も数日前から現れず、代わりに年配の女性兵がモモの世話をしている。
ここは敵船なのだから、味方なんてひとりもいるはずがないのに、モモはどことなく心寂しさを感じた。