第10章 覚醒
『大好き、君が大好き! これがわたしの本当の気持ち。』
「や、止めて…。」
気づきたくないの、本当の気持ちなんか。
『大好き、誰よりも大好き! この気持ちを伝えよう。』
「うう…。」
「メルディア! なにしてる、早く止めさせろ!」
わかってるの。
このままじゃダメってこと。
こんなふうになりたくない。
あなたみたいに、堂々と好きって叫べたら…。
『大好き、君が大好き! 胸が苦しくなるよ。』
苦しいの、モモ…。
助けて。
震える手が、銃を手放す。
ポトリと足元に銃が落ちた。
その手を握りしめ、モモはふわりと微笑む。
『誤魔化せない、この気持ちが宝物。』
宝物…?
この気持ちが?
夢より、愚かな恋を選んだこの心が、宝物だというの…?
いいのよ、メルディア。
誰を好きって気持ちは、宝物のはずでしょう?
メルディアの濁った瞳に、光が戻り、涙が溢れた。
「ぅ…うう…ッ」
そのまま、その場に崩れる。
「メルディア!」
ごめんなさい、アイフリード…。
もう私、立ち上がれないッ。
これ以上、自分の恋を汚したくないから。
メルディアの腕から解放されたモモは、ローの下へと向かう。
『失う可能性に気づいたとき、なにかせずにはいられなかった。』
次は、あなたに伝えるために…。
『今、わたしにできることは、この想いを言葉にすること。』
あなたの気持ちに、自分の気持ちに、鈍感でごめんなさい。
「チッ! 誰か、セイレーンを止めろ!」
しかし、返事をする者はいない。
皆、モモの歌に聞き入り、涙を流す。
ある者は恋人の名を叫び、ある者は想い人への愛を叫ぶ。
「これが、セイレーンの力──!」
『なぜだろう、さっきから君を見てるだけで、涙が溢れて止まらない。』
「おのれ、セイレーンッ!」
誰も止められないのなら、自分が止める。
アイフリードはサーベルを片手にモモへと走り出した。
その時…。
「オイ…、背中ががら空きだぜ……!」
“メス”
「しま…、ぐあぁぁ!」
いつの間にか立ち上がったローの手がズプリと背中に入り、アイフリードの心臓を抜き取る。
苦しさに、アイフリードはその場に倒れた。