第10章 覚醒
(でも他に方法がない。どうしたらいいの…?)
セイレーンである母を早くに亡くしたため、モモはほとんどの歌を継承できていない。
(お母さん…、どうすれば!)
今はもういない、天国の母に問いかける。
『モモはいつも、楽しそうに唄うわね。その歌、母さん好きよ。』
そうだ、あの頃のわたしは、いつも楽しく唄っていたんだ。
ただ、聞いて欲しくて。
そうよ、継承なんて必要ない。
ただ、自分の気持ちに正直になればいい。
それを歌に乗せればいい。
目が覚めた気がした。
わたしに滅びの歌など、必要ない。
ドカッ
「かは…ッ」
「無様だな、小僧。たかが女ひとりに命を賭けて。」
「…てめェに、アイツの価値なん…ざ、わかんネェ…よ。」
ペッと血の混じった唾を吐きかけた。
ピキリ、とアイフリードに青筋が立つ。
「セイレーンの価値をわかってねえのは、お前の方だろ? もういい、死ねよ。」
スラリとサーベルを抜く。
「「船長!!」」
「チッ…、来るな!」
ここまで、か…。
『走り出す、この気持ち追いかけて、わたしは君に伝えたかった。』
どこからか歌が聞こえて来る。
崖の、上から。
「な、なんだ!?」
アイフリードが振り向くと、銃を突きつけられたまま唄う、モモがいた。
(…ぐッ…、モモ…?)
どうして、こんなときに歌なんか…。
『心の迷いが消えて、大切なものがやっとわかったんだ。』
「メルディア、止めさせろ!」
アイフリードの声に反応し、メルディアがこめかみにグリッと銃口を押し付けた。
「モモ、止めなさい!」
しかし、モモは歌をとめない。
『こんな簡単なことなのに、どうして気づかないでいられたのだろう。』
「や、止めなさ…──」
なんだろう、この気持ち…。
心が、熱い──?
銃を持つ手をモモがそっと握り、ゆっくりと振り向いた。
『わたしがわたしでいるに、自分の心に素直になろう!』
メルディア、最初はあなたのために…。
気づいて欲しい、本当の気持ちに。
恋は、なにかを犠牲にするものじゃないわ!