第46章 美女と野獣
宝物のような言葉がある。
『あなたのことを、愛してる。』
夢のようなことだけれど、あれは夢でも幻でもない。
確かに、この耳で聞いた。
だけどその宝物は、一瞬のうちに奪われた。
ほかの誰でもない、彼女の手によって。
もしもモモと想いが通じ合えたなら。
そんなこと、もう何百回も想像した。
どれだけ幸せだろうか。
自分は彼女に、どんな言葉を返そうか。
けれど、現実は違う。
そんな自分らしくもない恥ずかしい夢は、叶うことはなかった。
冷えきっていた心に、ある感情が生まれる。
「……許せねェ。」
ちりりと胸を焼くその想いを、言葉に出した。
「……。」
そんなローを、コハクとチョッパーは黙って見つめる。
愛する人を目の前で奪われたのだ。
サカズキへの怒りはどれほどのものだろう。
「ローのせいではない」と言ったところで、鎮まるような怒りじゃない。
けれど…。
「あの女、絶対に許さねェ…。」
……。
「「……えッ?」」
怒りの矛先が想像と違っていて、コハクとチョッパーは同時に驚きの声を上げた。
聞き間違いでなければ、ローは今“あの女”と言った。
「え…、おい、ロー。お前、モモに怒ってんのか?」
びっくりして尋ねると、怒りのままの表情で睨まれ、チョッパーはびくりと身を竦ませる。
怖くなんかねぇぞ、コノヤロー!
「他に誰がいる? ああ…、赤犬の野郎か…。アイツも絶対に殺してやる。」
心臓を抜き取って潰そうか、それとも身体をバラバラに切り刻んで海に沈めようか。
実力差はさておき、そんな妄想だけがローの心を慰めてくれる。
「…母さんもか?」
許せないというのは、殺したいという意味なのか。
そう尋ねると、怒りの収まらぬ瞳と目が合う。
「いいや、アイツは殺さない。」
殺してなるものか。
この世界からいなくなることなど、それこそ許さない。
「もう一度、あの言葉を言わせてやる。」
そうだ、それがいい。
何千回、何万回。
声が嗄れても囁かせよう。
「だから、連れ戻す。」
世界のどこにいようとも。