第45章 告白、そして…
「伝えたいこと…だと…?」
先ほどモモと海岸で別れる時、確かに彼女はそんなことを言っていた。
けれど、悪いが今はそんなことを聞いている場合じゃない。
「いいから、早く中和剤をよこせ…!」
痺れはすっかり手足に回り、感覚もない。
膝をついて起きているのもやっとだ。
大敵を目の前にして、この状況は絶望的に近い。
けれどモモは、その愛らしい口から、さらに絶望的なことを口にする。
「ごめんなさい、中和剤は作ってないの。」
「なん…だと…!?」
だって、この痺れ薬が必要な時は、サカズキとの交渉がうまくいった時のみ。
そうしたら、ローに動かれては困るのだ。
きっと彼は、どこまでも自分を追ってきてしまうから。
「聞いて、ロー。あのね…──」
「聞かねェ! 話したいことがあんなら、後で聞く!」
聞いたら終わり。
なんだかそんなような気がして、ローはモモの言葉を早口に遮る。
けれどモモは首を横に振り、こちらを見つめて告げる。
「ごめんね、もう後は…ないの。」
「……!」
心が痺れていく気がした。
彼女の薬は、胸の中まで痺れさすようなものなのだろうか。
「ロー…。」
絶句してしまったローの頬に触れ、モモははにかむように笑う。
今日までセイレーンのことを話さなくて後悔した。
政府の力を侮っていて後悔した。
だからもう、後悔したくない。
ローのいない遠い地で、「あの時、ああしていればよかった」と思いたくない。
たぶん、モモが言おうとしていることは自己満足で、ローにとっては悪影響でしかなくなる。
愛情深い彼のことだ、ずっとずっと胸に残って、鉛のように留まり続けるだろう。
でも、それでも…どうか言わせて。
モモは一言一句噛みしめるように、呪いの言葉を紡ぐ。
「ロー。あなたが好きよ。世界で、いちばん…。」
ローの目が、驚きに見開かれた。
その黒い瞳に映る自分は、いったいどんな表情をしているだろう。
なるべく綺麗に笑おう。
思い出してもらうなら、笑顔がいいから。
今度はちゃんと、記憶に残るように。
「あなたのことを、愛してる。」