第45章 告白、そして…
今、目の前で繰り広げられていることが信じられない。
いや、信じたくない。
彼女はなにを言っている。
手に持つのは、薬剤師であるモモが使うことのない手術メス。
それを細い首に突きつけて、彼女はなんと言った。
震えているのか、メスの先が当たってモモの白い肌から鮮血が流れる。
「やめろ!」
いくら止めても、名前を呼んでも、金緑色の瞳がこちらに向くことはない。
モモは自分を踏みつけるこの男を見つめたまま、声高々に言い放つ。
「手を出さないと誓うなら、わたしはあなたの船に乗りましょう。」
その瞬間、けたたましく鳴る爆発音も、大地を響かせる地鳴りも、ローの耳には聞こえなくなる。
瞬きも、呼吸すら忘れる。
そしてまた、同じことを思う。
『彼女はなんと言った』と。
身体の上で、フ…ッと笑う声が聞こえる。
サカズキは興味深そうに目を細めると、モモに向かって問いかける。
「面白いことを言いよる。じゃが、わかっとるんか。お前がわしらのところにくりゃあ、二度と日の目を拝むことはできん。」
遠回しに、一生幽閉されることが告げられる。
けれどモモは、そんな事実に怯えることもなく、しっかりと頷いた。
「構わないわ。あなたが約束を守りさえすれば…。」
「一生見過ごすことはできん。今回きりじゃ。それでもか?」
「ええ。今回限りで構わない。」
自分を置いてどんどん進む話に、ローは急激に体温が下がっていくのを感じた。
なにを、なにを勝手に…。
「いいじゃろう。お前の命と引き換えに、ローと麦わらは見逃しちゃる。」
勝手に成立した取引きに、ローの怒りは爆発する。
「ふざけるな…ッ!」
渾身の力でサカズキの足を跳ね退ける。
飛び上がるように身体を起こしても、もはやサカズキはローに興味を失ったかのように、手を出すようなことをしない。
その様子が、今まさに交わされた取引きを証明するようで、なおさら頭にきた。
けれど今は、この男よりも怒りをぶつけたい相手がいる。
隙を見せられない相手であるはずのサカズキに、ローは簡単に背を向けた。