第45章 告白、そして…
声が出せたことが、奇跡だと思った。
だって肺は今にも破れそうだし、酸欠でフラフラする。
(人間は緊急事態には、通常の何倍もの力が出るって本当なのね。)
実際、モモはここに来るまで一度も転ばずに、ものすごい速さで走ってこられた。
このスピードが出せたなら、たぶんミラに追われていた時、簡単に逃げ切ることができたはず。
これが火事場の馬鹿力というやつか…なんて呑気に考えているとは、この場の誰も思わないだろう。
荒れ狂う呼吸を隠して、モモは驚愕と怒りに染まるローではなく、不審な視線をこちらに向けるサカズキを睨んだ。
「その足を、どけなさい。」
しかし、サカズキはモモの指示に従うことなく、訝しげに首を捻った。
「なんじゃい、お前は。」
ああ、そうか。
サカズキの前に姿を見せた時、モモはまだ子供の姿だった。
もとの姿に戻ったモモを、同一人物とは思わない。
ちょうどその時、バサリと羽音がしたと思うと、どこからともなく、黒衣の女…ミラが降ってきた。
突然の登場にモモは目を見張ったが、サカズキは驚くこともなく、ミラに問いかける。
「セイレーンはどないしよった。」
しかしミラは、サカズキの質問に首を傾げる。
「…セイレーン?」
その様子に、サカズキは目に見えて苛立つ。
「あのガキじゃ!」
そこまで言われて、ようやくミラは質問を理解し、頷く。
「子供が、子供じゃなくなったから。」
だから追わなかったとミラは答えた。
そういえば、彼女はモモがもとの姿に戻ったとたんに追ってこなくなった。
その姿に戸惑っていたようにも見えたことを思い出す。
それはサカズキが“子供を追え”という命令を出していたから、大人のモモを追わなかったということか。
「…そのセイレーンは、どこにおる?」
「あそこ。」
追っていた子供のことを聞かれているのだと理解したミラは、しっかりとモモを指差す。
それを見た時、サカズキの目に鋭さが増した。
そして次の瞬間、サカズキはマグマ化していない方の腕を振るい、バキリと音を鳴らす。