第10章 覚醒
「夢なんて、もういいの。」
メルディアは濁った瞳でポツリと言った。
「もういいのよ、あの人さえ、傍にいてくれれば…。」
「メル、あなたの夢はその程度のものじゃなかったはずでしょ!?」
付き合いの短いモモですらわかる。
メルディアの夢が、どれだけ大切だったかを。
『母の夢は、いつしか私の夢になってた。』
そう語ってくれた、彼女の瞳は、とても生き生きとして、誇りを持っていた。
そんな濁った瞳をしないで!
「しょうがないでしょ。私、あの人に本気の恋をしてしまったんだから。」
うっとりと、アイフリードを見つめる。
「恋って、なにかを犠牲にしないとできないものよ。私の場合は、それが夢だったってだけ。」
(そんなの、違う…!)
恋は、犠牲にするものじゃない!
むしろ、与えられるものだ。
その人の言葉に、一喜一憂する。
そりゃあ、落ち込むこともあるけど、その倍、嬉しいことがある。
その人の力になりたいし、信用してもらえたら、なんでも出来るってくらい力が湧く。
触れられれば嬉しいし、触れたいと思う。
他の誰かだったら絶対嫌なことも、その人とだったら喜びに変わる。
恋って、そういうものじゃないの…?
そこまで思って、ふと自分で自分に問いかけた。
わたし、恋なんてしたことないのに、どうしてそんなことを知ってるの?
そんなの、考えなくても答えが出る。
今の気持ち、誰に対して感じたことだったか。
ローの言葉に、天にも上るときもあれば、地獄に落とされるときもある。
ローの力になりたくて、より立派な薬剤師になろうと思った。
抱きしめられたり、キスをされたり、本当は嬉しかった。
昨日の夜も、怖かったけど、嫌じゃなかった。
少しも嫌じゃ、なかったの…。
どうして…?
(ロー、わたし、あなたが好き…。)
どうして気がつかなかったの?
あなたに、こんなにも恋してる。