第45章 告白、そして…
「コハク、話せ。」
厳しいローの視線が、コハクを捉えた。
そしてコハクも、これ以上言わずにいることはできないと決心する。
(ごめん、母さん。)
約束を破ることを心で詫びながら、コハクは口を開く。
「ローは、セイレーンって知ってるか?」
「セイレーン…? あぁ…歌で人間を惑わす海の精霊だったか。それがどうした。」
海の精霊。
いつかシャチとペンギンに聞いた架空の生物。
でも、なぜだろう。
妙に聞き覚えがあるように感じるのは。
「母さんは、セイレーンなんだよ。…実際には、そう呼ばれている一族だけど。」
歌に特別な力が宿り、傷を癒やすことも、植物を育てることも、天気を操ることもできるという。
言われてみれば、思い当たることがいくつもあった。
出会った時、モモの歌を聞いた薬草たちはキラキラと輝いていた。
彼女の育てた薬草は、とてつもなく効力が高い。
シャボンディ諸島で、モモが歌を唄った瞬間、ヤルキマン・マングローブが樹液を出して、船を完璧にコーティングした。
あんな奇跡は、世界樹の知識なんかじゃ起こせない。
麦わらの一味と合流して、酔ったモモが唄ったら、大量の海蛍が星屑のように現れた。
めったに人前に現れない海蛍が、なにかに呼び寄せられたように。
悪魔の実の能力者でもないのに、そんな特殊能力を持つ人間がいるとは、にわかに信じられない。
けれど、ローは信じざるを得ない奇跡をいくつも見てきた。
だからか。
だから、政府は目の色を変えてモモを追うのか。
「モモの子なら、お前もセイレーンの一族なんだろ。お前も追われているのか?」
「いや…、オレは男だから。セイレーンの能力は女にしか受け継がれないんだ。」
だから、なおのこと貴重な存在。
「おそらく、確認されているセイレーンはモモひとりだろうな。政府は喉から手が出るほど欲しかろう…。」
海軍が軍勢を率いてくるほどに。
「クソッ、なぜ早く言わない…! イヤ、話は後だ。お前もモモを探せ!」
秘密にされていた怒りよりも、彼女が狙われている危機感が勝り、ローは宿を飛び出した。