第45章 告白、そして…
距離の近さが功を奏して、運動音痴のモモが投げた灯籠は、きちんと女に向かって飛んでいった。
彼女はというと、一瞬驚きはしたものの、慌てず騒がず、冷静に腰に帯刀していた細身の剣を抜き、自分にぶつかる前に灯籠を切り捨てる。
ガシャン…!
小気味のよい音と共に、地面に叩きつけられた灯籠が割れる。
ガラス製の灯籠は、細かな破片を飛ばして無残なガラクタになった。
でも…。
(それで、いいわ。)
もともと灯籠を彼女に当てるのが目的ではない。
モモの目的は…。
女の足元で、叩き割れた灯籠に閉じ込めていた煙がもわりと上がる。
モモが燃やした、薬草の煙。
煙はすぐに巻き上がり、足元から女にまとわりつく。
その異臭に女が顔をしかめたのを見て、モモは再び逃げ出す。
「逃がさない…--!?」
突如、追いかけようとした女の表情が歪んだ。
瞳が揺れて、ふらりとその場に膝を突く。
(……効いた。)
そう、これこそがモモの狙い。
モモが燃やした薬草には、毒性がある。
燃やすと、その煙に意識を混濁させる作用があるのだ。
けれど、実際に試したことはなかったし、うまく彼女が吸い込んでくれるかもわからない。
一か八かの賭けだった。
(でも、そう長くは保たないわ…。)
行き当たりばったりの作戦だ。
効力も弱い。
時間が経てば、すぐに意識を取り戻すだろう。
それまでに、少しでも遠くに、みんなのところに戻らなくちゃ…!
モモが危険なのはもちろんだけど、海賊である彼らにだって危機は迫っているのだ。
なにせ、相手は海軍元帥。
すべてを燃やし尽くす男なのだから。