第45章 告白、そして…
「……子供、見つけた。」
女の瞳がモモを捉え、一歩踏み出す。
「……!」
彼女の姿が、先ほどサカヅキの隣にあったことを記憶の片隅に思い出し、敵であることを悟る。
これ以上距離が縮まる前に、モモは走り出す。
もはや方向などわからず、どこへ向かっているかすら見えない。
でも、あの手に捕まれば、最後。
過去二度捕らえられた時の記憶が、薄ら寒い感覚と共に蘇ってくる。
『子供を生ませて、繁殖させよう。』
嫌だ、誰にも触られたくない!
決めたんだ、もう一度あの人の手を取ると…!
全速力で駆けるけど、所詮は子供の足。
瞬く間に背後から足音が迫ってくる。
肺が破れそうに痛み、頭がガンガンする。
逃げ惑うあまり、注意力が緩慢になっていた。
ズルッ…!
ぬかるみに足を滑らせ、崖の上から落下してしまう。
「あ…ッ」
ふわりとした浮遊感がモモを包み、次いで激しい衝撃が全身を襲った。
「……ッ!」
背中を強打し、息が止まった。
けれど幸いにも、それほどの高さはなかったようで、大きなケガはない。
この隙に逃げなければ!
そう心で思うけど、痛みを堪えているうちに、女は軽い身のこなしで崖下まで降りてくる。
「……生きている?」
モモの身が心配というより、死んでしまったらサカヅキの命令を果たせなくなることを案じているような口ぶりだった。
女の問いに答えることなく、モモは身を起こす。
束の間、女の顔にホッとしたような表情が浮かぶ。
(この人にとっては、サカヅキの命令が全てなんだわ。)
例えモモが、どんな言葉を投げかけたとて、彼女の心が絆されることはないだろう。
けれど、どれほど走っても彼女から逃げ切るのは難しい。
(なにか手を考えなくちゃ…!)
なにかないのか、なにか…。
モモは周囲にぐるりと目を走らせ、突破口を探る。
青々とした草木。
そして川べりに、どこかから流れ着いてしまったのか、ガラス製の灯籠がひとつ。
中の火が、まだ消えていない。
(そうだ、もしかしたら…ッ)
ひとつの作戦が浮かび上がった。