第45章 告白、そして…
傷痕の目立つ男の強面が驚きに歪んだ。
続いて鋭い視線がモモを射抜く。
恐怖を感じて、身体がブルブルと震え始める。
この男の顔を、モモは知っていた。
会ったことなどない。
それでも知っていたのは、男の情報を新聞の一面で見たからだ。
“海軍元帥 代替わり!”
そんな見出しの新聞を。
マグマグの実の能力者で、
元海軍大将のひとりで、
エースの命を奪った男…。
海軍元帥 サカヅキ。
かつて赤犬と呼ばれた男だ。
サカヅキは値踏みするようにモモを眺めたあと、軽く後ろを見やる。
そこで初めて、彼の後ろに大勢の海兵がいることに気がついた。
部下たちに向かってサカヅキが口を開きかけた瞬間、モモの頭に電流のようなものが走り、正気を取り戻した。
「……ッ」
脱兎の如く、身を翻して森へと飛び込む。
気づかれた。
捕まったらもう、戻れない…!
逃げていくモモの背中を眺めながら、サカヅキは慌てた様子もなく、隣に控えていた女に命じる。
「追え、あのガキを捕まえろ。」
黒衣の衣装に身を包んだ女は、サカヅキの指示にひとつ頷くと、跳ぶようにして後を追った。
「ハァ…ハァ…ッ」
心臓がうるさいくらいに音を立て、今にも破裂しそうだ。
体力の限界はとうに迎えているのに、足はせわしなく動く。
身体の痛みなど忘れて、無我夢中で走った。
道なき道を行き、藪の中に突っ込む。
細い枝が肌を掠め、いくつも肌を裂くけど、そんなことに気を遣ってもいられない。
少しでも遠く、少しでも早く。
バサリ…ッ
一瞬、大きな鳥が舞い降りたのかと思った。
体重を感じさせないような動きでしなやかな身体を着地させたのは、ひとりの女性だった。
黒い服に、同じく夜を溶かしたような黒い髪。
だけど瞳だけは、血のように赤い。
異様な風貌をしたその人は、まるで人形のように表情がない。
その仄暗い瞳に、モモは冷たい恐怖を感じた。