第44章 剣と秘薬
冷たい風が吹いた。
けれどここは夏島で、おそらく冷たく感じているのはモモだけなのだろう。
2人で流した灯籠が川を下っていく。
その光が、心に染みる。
あれだけ優しく温かいと思った光は、今や鋭く厳しいものに見えた。
天に昇った父と母。
彼らが今の自分を見たら、どう思うだろうか。
きっと孫ができるなんて思ってなかったでしょう?
そして、わたしがこんなに愚かだとは思わなかったでしょう…?
恥ずかしくて、情けなくて、目を背けたくなる。
ああ、わたしはいつでも自分のことばかり。
ここで目を背けたら、コハクはどうなる。
辛かったでしょう、とても。
わたしに刃を向けるのは…。
それでも、コハクは逃げなかった。
こんなどうしようもない自分の手を取って、一緒に向き合おうとしている。
コハク。
コハク…。
ごめんね、コハク…。
「少し、時間をちょうだい…。」
ちゃんと、考えるから。
だから少しだけ、時間が欲しい。
固まった足をのろのろと動かした。
「…どこに行くんだよ。」
「頭を…冷やしたいの。すぐに…戻るから、先に帰っていて。」
「……。」
背後でコハクが悩んでいるのがわかる。
モモをひとりにしていいか、判断がつかないのだろう。
「…お願いよ。遅くならないうちに、帰るから。」
だから今は、ひとりにしてほしい。
「……わかった。先に戻る。」
カサリとコハクが動く音がする。
その足音は徐々に遠ざかっていった。
完全に聞こえなくなっても、振り向く勇気がない。
モモの脳裏には、辛そうな、悲しそうなコハクの表情が焼き付いている。
彼の顔は、父親にそっくりで。
まるで愛しいあの人が、おんなじ表情をしているように思えた。
おぼつかない足取りで、あてもなく足を進める。
わたしはどれだけ、大事な人を傷つければ気が済むのだろう…。