第44章 剣と秘薬
わかっていた。
こんなことをしたって、なんにもならないこと。
ローから記憶を、コハクから父親を奪ったから、自分だけ幸せになれない。
そんなのは、ただの詭弁だ。
コハクは当然そんなことを望まない。
そして、6年前のローは今の自分を見てなんと言うだろう。
『お前だけ幸せになるな。』
そんなこと、言うはずない。
たぶん…。
『俺以外の女になるなんて許さねェ。さっさと俺のものになれよ。記憶があろうとなかろうとな。』
もう一度自分のものなれと、そう言うと思うのだ。
本当に罪を償うつもりなら、今度こそローと幸せになるべきだろう。
でも、そうしなかったのは、コハクが言うように、ただ自分を許せなかったから。
奪うものを奪っておきながら、自分だけ幸せになることを許せない。
ローもコハクも、そんなことを望んでいない。
だけど、自分を許さないことで、モモは罪悪感から逃れていたのだ。
わかっていたわ…。
全部全部、自分のため。
ただの自己満足だってこと。
わかっていながら、気がつかないフリをしていた。
自分を許したくなかったら。
だから過去を言い訳にして、都合のいいようにして。
そう…。
全部、わたしのワガママよ…。
あなたはすべて、知っていたのね。
それなのに、今まで気がつかないフリをしてくれていた。
モモのために。
コハクの指摘は、モモが長い間封じ込めていた心の蓋をこじ開けた。
モモの表情が凍る。
それを見て、コハクはモモが心の内を認めたことを知る。
ずっと隠して、認めたくなかったはずのことを。
「母さん。今日のオレたちは、きっと親子には見えない。」
兄妹か、カップルか、同じ年頃の誰か。
「だから、親子としてじゃなく、オレ自身の言葉で言うよ。」
息子としてでなく、ただひとりの“コハク”として。
「モモ、もういい加減、自分を許してやれよ…!」
「……ッ」
コハクの言葉が、刃となってモモの心に突き刺さった。