第44章 剣と秘薬
コハクの告白を聞いたモモは、しばらく黙った後、ようやく口を開いた。
「あなたたちがそんな誓いを交わしていたなんて、知らなかったわ。」
動揺する反面、心は喜びで溢れている。
けれど、それをコハクに知られるわけにはいかない。
「でも、わたしはローの想いを受け取れないわ。わたしが好きなのは、ただひとりだけなの。」
今も昔も、ローだけが好き。
でも、今のローの気持ちは受け取れない。
「そんな嘘を吐いて、なにになるんだよ。」
進まない話に、コハクが眉を引き絞る。
苛立っているのか、それとも悲しんでいるのか…。
真実を知らないコハクに理解できないのは仕方ないことだ。
「コハク。もし…もしもよ、わたしがローを好きであっても、あなたの望むようにはならないわ。」
ローから記憶を奪い、コハクから父親を奪った自分が、これ幸いと新しく家族を作り直すことが許されるわけがない。
そんな都合のいいこと、絶対できない。
「…それは、なんで?」
「わたしの家族は、あなたとあなたのお父さんだけなの…。」
すべては話せない。
だけど理解してほしい。
自分だけ幸せになれるはずもないのだ。
ローとコハクが、遠回りでも親子になれた。
それだけで十分幸せなのだから。
「嘘だ。」
「え……?」
今度はなにも嘘を吐いていない。
語気を強めたコハクに、モモは今度こそ首を傾げた。
「なにが嘘だっていうの…。」
「全部だよ、母さん。」
「全部…?」
そう、最初から嘘なのだ。
コハクにはわかっていた。
モモがローを好きなのも、その気持ちを受け入れられない理由も。
それを言うのは辛い。
でも、言わなくちゃ。
そうしないとモモは、いつまでたっても幸せになんかなれない。
モモを幸せにするのは、島から連れ出して父親に会いに行くことではない。
もっと簡単なこと。
そして、それができるのは……自分だけだ。
さあ、心の剣を抜いて突き立てろ。