第44章 剣と秘薬
「な、なに言ってるの。そんなわけないじゃない…ッ」
否定したモモの声は、やっぱり震えていた。
「オレにわからないわけないだろ。生まれてからずっと、母さんの隣にいたのはオレなんだから。」
どんなに小さな変化でも、コハクにはわかる。
モモがコハクの夢に気がついたみたいに。
「それは…ローのことは好きだけど、あなたの思う好きとは違うわ。」
この期に及んでまだ否定するモモを、コハクは鋭く見つめた。
「バカにすんなよ。母さんが誰を想ってるか、オレにわからないはずないだろ。」
初めは少し複雑だった。
でも、それがキッカケでコハクはローを意識するようになったのだ。
あの横暴で性悪な男に、父親になってほしいだなんて思う日がくるとは想像していなかった。
「…わたしが好きなのは、あなたのお父さんよ。」
呟くように言うモモを見て、コハクはギュッと拳に力を入れる。
「そうかよ。…でも、ローは言った。母さんのこと、愛してるって。」
「……!」
モモの肩がビクリと跳ねた。
ローが自分にそんな告白をしていると思わなかったのだろう。
「それだけじゃない。ローはオレに言ったんだ。…オレの、父親になりたいって。」
「え……。」
驚きに目を見開いたモモは、返す言葉も見つからないように絶句する。
「だからオレも言った。ローに父親になってほしいって。」
「な…、なにを…。」
頭の整理が追いつかないのだろう。
モモの動揺具合が手に取るようにわかる。
でも、待ってはあげない。
「母さん、オレたちは親子になったんだ。今のオレの父親は、ローだよ。」
血の繋がりなんて関係ない。
あの日から、コハクとローは家族になったのだ。