第44章 剣と秘薬
“ありがとう”
その言葉に、コハクは目を瞑って少しだけ押し黙った。
「…なら、オレはじいちゃんとばあちゃんのために灯籠を流そうかな。」
「え…?」
コハクの口から祖父母の名前が出たのは初めてだ。
遠い昔に亡くなっていて、会ったこともないのだから当然かもしれない。
「おかしいかな?」
「そんなことないわ、きっとすごく喜ぶ。」
モモ自身、両親の記憶はすでに曖昧だが、優しい彼らのことだ、涙を流して喜ぶことだろう。
(孫ができるなんて、2人は想像していたかしら。)
モモだって、自分に子供ができるなんて、再び家族ができるなんて、思いもしなかったのに。
明かりが灯った2つの灯籠を、川へと浮かべた。
流れに沿って、ゆっくりと街の方に下っていく。
想いを宿した灯籠は、広い海へと流れていくのだ。
しばらく黙って遠ざかっていく灯籠を見つめていた2人だが、ふいにコハクが口を開いた。
「母さん…。」
「なぁに?」
「今のオレたちは他のヤツらから見て、どういうふうに映ってるかな。」
同じ高さの目線がモモに向く。
「そうね。今日は兄妹とかカップルとか、いろいろ言われたわ。誰も親子だなんて思わないわね。」
少なくとも同じ年頃の誰か。
モモはそんな気持ちで1日を楽しんでいた。
「うん。親子には見えないよな。」
コハクは空を見上げ、深く息を吸った。
「…だから、オレ、ずっと母さんに言えなかったこと、今日言うよ。」
「え…?」
突然の宣言に、モモは驚いて目を見開いた。
「言えなかったこと…?」
そんなことがあるなんて、初めて知った。
「うん…。本当はもっと、早く言わなくちゃいけなかったんだ。」
ずっとずっと言えなかったこと。
言わなくちゃいけなかったこと。
それを今まで言えなかったのは、たぶん、怖かったからだ。
モモを傷つけてしまうのが。