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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第44章 剣と秘薬




「あら、誰もいないわ。」

山に磨かれた綺麗な水が流れる川にやってきたが、そこには誰ひとり見当たらない。

「ああ…見て母さん。下流の方に光が。あれって灯籠の灯りだろ?」

山から流れる川は、街を通って海にたどり着くようだ。
街を見下ろすと、灯籠の灯りがポツポツと見える。

「上流に来すぎちゃったみたいね。でも、いいじゃない。ここは貸切りよ。」

海へと流れるのは時間が掛かるかもしれないが、2人っきりで楽しめる。
デートとしては、最高のシチュエーションだ。


「じゃ、火をつけようか。」

持っていた灯籠に、コハクが手際よく火をつけはじめた。

簡単に水で消えないように工夫された灯りは、優しく、それでいて力強い光を放っている。

「綺麗ね。」

モモとコハクが選んだ灯籠は、どちらもシンプルなデザインなので、光がよく映えた。

「…母さんは、なんでその灯籠にしたの?」

選んだ理由は、ただ桜に思いれがあるからというわけではないだろう。

尋ねられたモモは、空に浮かぶ月を見上げながら静かに答える。

「コハク、灯籠流しの意味を知っている?」

「いいや…?」

「灯籠流しはね、魂鎮めの儀式なのよ。」

鎮魂。
つまりは、天に昇った人を思い出し、悼むという風習だ。

「ああ…。だから桜なんだ。」

つまり、モモはエースの死を悼み、それにふさわしい桜の灯籠を選んだということだ。

「きっとエースは、悼まれたいなんて思ってないでしょうけどね。」

「そんなシケた顔されちゃ、堪んねぇな!」なんて言うに違いない。

でも、死を悼むのは残された者にできる唯一のことだ。
けれど、少し前の自分なら、こんな明るい気持ちで悼むことなどできなかっただろう。

「海に出て、良かったわ。エースのことを、こんな気持ちで思い出すことができたから。」

月を見上げても、苦い気持ちになることはもうない。

そのキッカケを作ってくれたのは、隣にいる少年だ。


「コハク、わたしを島から連れ出してくれて、ありがとう。」

こんな言葉を言えるようになるなんて、あの時は思わなかったんだから。



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