第44章 剣と秘薬
コハクに連れられて入ったのは、街角のこ洒落た喫茶店。
種類豊富なお茶とパイを扱うその店は、甘い香りで包まれていた。
子供2人きりの来店にもかかわらず、店員さんは笑顔で「こちらへどうぞ」とテラス席に案内してくれた。
普段より大きく感じる椅子に腰掛けながら、モモはずらりと並んだメニューに頭を悩ませる。
一方、甘いものに興味がないコハクは、早々にメニュー表を閉じた。
「なににすんの?」
「うーんと、…この葡萄の香りがするお茶って素敵ね。パイはどれにしようかしら。ああ、これも美味しそう。」
散々渋ったくせに、いざ注文するとなると目移りしてしまう。
そんな様子のモモに、コハクは満足した。
「全部頼んじまえばいいじゃん。」
「食べられるわけないでしょう…。」
大胆な提案に嘆息しながら、モモは自分の胃袋が小さくなってしまったことを悔やんだ。
「お決まりですか?」
エプロンの可愛い店員さんが注文を取りにきて、慌ててメニューに目を走らせる。
「えっと、…じゃあ、この葡萄の香りのお茶とブルーベリーパイをひとつ。」
「じゃあ、オレもそのお茶ひとつ。」
「かしこまりました。…ふふ、お嬢ちゃんたち、今日はデートかしら?」
2人の微笑ましいやりとりを見ていた店員さんが、笑顔で尋ねる。
弟妹の次はカップルか…。
「まあ、そんなとこ。」
適当に答えるコハクを眺めながら、普段なら絶対にされない誤解を自分も楽しむことにした。
「あら、素敵ね。次に行くところは決まっているの?」
「いいえ。」
特に目的のないデートだから、このあとの予定はなにもない。
「2人とも余所から来たのでしょう? だったら、夕方から始まる灯籠流しに参加してみたらいいわ。」
「灯籠流し?」
「ええ。小さな灯籠に明かりを入れて、川から海に流すの。年に1度しかないお祭りなのよ。」
小さな明かりが集まって海に流れていく様は、とても美しいのだという。
「ああ、だから灯籠を売ってる店が多かったのか。」
さりげなく店の商品をチェックしていたコハクが、納得したように呟く。
体験したことのない文化に、モモはがぜん興味が湧いてきた。