第44章 剣と秘薬
モモの話に耳を傾けながら、コハクは首を捻った。
(そうかなぁ…。)
口には出さなかったけれど、話に共感できなかったのだ。
モモは優しさに恵まれていたと言う。
でも、コハクはそうは思わない。
親のいない子供に、孤児院や教会が手を差し伸べるのは普通だ。
金を持たない密航者に、仕事を与えるのは普通だ。
前々から思っていたことだけど、モモは優しさのハードルが低すぎる。
小さな優しさを見つけては、幸せだと満足している。
そこに子供が買い食いをするような、当たり前の楽しさがなくたって、彼女は気づきもしないのだ。
一方で、自分の犯した過ちを許すことができず、過剰な罰を与える。
約束を破り、歌を唄ってしまったモモ。
両親の死は、確かにモモが原因だったかもしれない。
けれど、歌だけではなく、声すらも封じる必要があっただろうか。
コハクの父親と出会わなければ、今も声を発することはなかったかもしれない。
他人に甘く、己に厳しいモモ。
それは果たして、本当に幸せなのだろうか。
「あ、美味しいわ。ありがとう、コハク。買ってもらって良かった。」
饅頭を口に含み、モモは笑顔をこちらに向けた。
「……そう? 良かったじゃん。」
またしても小さな幸せを見つけて、喜ぶモモを眺めながら、コハクは複雑な気持ちになった。
(こんなんじゃない。)
コハクがモモに感じてほしい幸せは、こんな小さなものじゃない。
少し前までは、モモを島から連れ出し、一緒に父親に会いに行くことこそが彼女の幸せだと信じていた。
でも、たぶん違う。
モモを幸せにすることは、もっと簡単なことだ。
そして、それができるのは…--。
「はぁ、なんだか喉が渇いちゃった。どこかに水飲み場はないかしら。」
「じゃ、どこか店に入ろうぜ。ゆっくり茶でも飲めばいい。」
徐々に人気が増えてきた大通りを指差してモモを誘った。
「そんな、贅沢な…。」
「全然贅沢なんかじゃねーよ。ほら、母さんも茶が好きだろ。」
またもや遠慮がちになるモモを無理やり引っぱった。
いつもとは違う、小さな小さな手を握って。