第44章 剣と秘薬
「熱いから気をつけて持てよ。ボウズ、妹の面倒をちゃんとみて偉いな!」
「…まぁね。」
(いもうと…!)
テキパキと店主とやりとりをするコハクの後ろで、モモは軽く衝撃を受けた。
小さくなったとはいえ、身長はそれほど変わらないのに店主に妹と思われた。
中身は20歳近く自分の方が年上なのに。
「はい、美味そうだよ。…って、なにショック受けてんの?」
「いえ…、別に…。コハクって、しっかりしてるのね…。」
「はぁ?」
なにを今さら…とは思ったが、口には出さなかった。
たぶん、モモは自覚していないんだろうな。
自分がどのくらい抜けているということに。
彼女が無防備だったからこそ、自分は人より大人びたのだと思う。
「母さんってさ、子供の頃どんな風に過ごしてたの?」
「え?」
母が幼少期、セイレーンの力のせいで両親を失ったことは知っている。
その後、政府の目から逃れつつ島を渡り歩いたと聞いていたが、彼女の交渉力や話術で、はたして問題なく生活ができたのか疑問に思ったのだ。
「子供の頃ね…。初めのうちは孤児院に預けられたり、教会でお世話になったりしたわね。」
口も利けない孤独な少女を、町の人々は温かく迎えてくれた。
けれど、町に海兵の姿を見かけるたび、モモは町を離れなくてはならなかった。
お金なんてなかったから、貨物船に潜り込んで島を出た。
「でも、それを繰り返すうちに、ある日潜り込んだことがバレちゃってね。」
海に放り出されるかとも思ったが、長い航海の中、空腹に耐えた少女に船員たちは優しくしてくれた。
食事を与えてくれて、仕事もくれた。
雑用をこなす代わりに、船に乗ることを許してくれたのだ。
そのうち、モモが薬学に詳しいことがわかり、船員たちは喜んでくれた。
そこでモモは、自分の知識がお金になることを知ったのだ。
次の町からは、その経験を活かしてお金を稼ぐことを覚えた。
薬を作り、それを売って。
売ったお金でなんとか衣食住を確保して、海兵を見かけたら、お金を払い堂々と船に乗った。
「今考えたら、わたし、恵まれていたわ。」
優しさに恵まれていたから、あの日…17歳のあの日まで、生きてこられたのだ。