第44章 剣と秘薬
宿を出たモモとコハクは、そのまま街の市場へと出掛けた。
まだ時間も早いというのに、すでに日中の半分以上の店が開き、営業を始めている。
船の入港が多い港町は、地元の漁師や余所からきた船乗りたちをターゲットにした飲食店や雑貨屋が早朝から店開きすることも珍しくない。
あちらこちらから漂う食べ物の匂いが、鼻をくすぐる。
そういえば、朝食も摂らずに出てきてしまった。
匂いにつられて、お腹がくぅと鳴った。
「なにか食べようか。」
コハクがローから貰ったお金を入れた布袋を取り出し、店を指さす。
「そうね…。でも、なにを食べようかしら。」
立ち並ぶ店の多さに、目移りして悩んでしまう。
「気になったものを片っ端から食べたらいいんじゃないの。ローがたくさんお金くれたし、たまにはいいだろ。」
「そっか。」
そういうものか。
確かに店先には串焼きや小さな丼ぶりなど、食べ歩きに適したものが数多く並んでいる。
「あ、あれ美味そう。オレ、あれ買おう。」
小麦粉を練った生地に海獣の肉と刻んだ島野菜の餡を入れた肉饅頭。
ホカホカと蒸気を上げる店に、コハクは足を向ける。
「らっしゃい! ボウズ、いくついるんだ?」
店主の問いに答えるべく、コハクがこちらを振り向いた。
「母さ…じゃない、モモ、食べる?」
さすがに人前でモモを母と呼ぶわけにはいかない。
でも、コハクに名前を呼ばれると、なんだかむず痒い気分になった。
「えぇっと、どうしようかしら。」
大きいわけではないが、具がぎっしり詰まった饅頭はボリュームがありそうだ。
これを食べたらお腹いっぱいになって、他のものを食べられなくなるかもしれない。
「ウチの饅頭は、温泉で蒸かしてるから他の街とは一味違うよー。」
「そうなのね…。うーん…。」
食べてはみたいけど…。
さらに悩むモモに、コハクは待ちくたびれたのか指2本突き立てた。
「2つくれ。」
「あいよ、毎度あり!」
紙製の包みに饅頭が2つ詰められる。
「あ、まだ考えてたのに。」
「悩みすぎだよ。食えなかったらオレが食うから、問題ないだろ。」
そう言うと、コハクはさっさと料金を支払い饅頭を受け取った。