第44章 剣と秘薬
ねえ、コハク。
結婚って、好きな人同士が夫婦になるためのものなのよ?
そう言いたかったけれど、その言葉はなぜな喉の奥に貼りついて出てこなかった。
わかっているの?
ちゃんとわかって言っているの?
もし、わたしがローと結婚したら、ローはあなたの…--。
「とりあえず、このまま一晩待ってみるか。」
薬の効果が一時的なものなら、明日の朝には元に戻っているかもしれない。
薬の成分がわからなかったことは残念だが仕方ない。
ローはそう提案した。
「そうするしかねーか…。母さん、それでいい?」
「えッ、あ…うん。」
コハクの質問に我に返ったモモは、咄嗟に頷いた。
「じゃあ、オレは宿に戻るよ。サクヤが帰ってくるかもしれないし。サクヤを見つけたら、すぐに知らせにくるから。」
3人で船に留まるよりも効率がいいと、コハクはモモが止める間もなく、船を飛び出していった。
「あ、コハク…!」
この微妙な空気で2人きりにしないで! というモモの心の叫びは、彼に届くことはなかった。
「…ロー。あなた、コハクになにか言ったの?」
コハクが出ていった船室で、モモはローに尋ねた。
「あ? なにかってなんだよ。」
「だから…その…、…いえ、なんでもないわ。」
「さっきの結婚のことよ」だなんて言えるはずもなく、モモは口をもごつかせながら、問いただすことを諦めるしかなかった。
きっと、冗談だ。
ローもモモと同じで、冗談を言ったに決まってる。
だって、結婚なんて、あり得ないし。
むしろ、冗談であって欲しい。
そう願った。