第44章 剣と秘薬
縮む…?
コハクの言っている意味がよくわからなくて、キョトンとした。
いったい、なにが縮んだというのだろう。
なんだか身体に違和感を感じて視線を落とすと、宿で借りた浴衣がはだけてしまっていた。
(やだ、いつの間に…。)
ずり落ちてしまいそうなくらい乱れた服装に、モモは慌てて直そうとする。
「……?」
おかしい。
この浴衣は、こんなに大きかっただろうか。
袖から出ていたはずの手も、いつの間にか隠れてしまっている。
モモはブカブカになった袖を見つめて首を傾げる。
これじゃ、まるで大人の服を着た子供のようだ。
「……。」
『母さん…、縮んでるよ…。』
「……はぇ?」
思わず自分の口から出た声は、マヌケな上に、たいそう幼く聞こえた。
縮んでる…。
(縮んでるわ、……わたしが!)
まくった袖から出てきた手は、紅葉のように小さい。
「うそ…。」
足をもたつかせながら、転がるように広間の鏡の前に走る。
「……うそ。」
鏡には、幼い少女が…かつて己の歌のせいで、両親を死なせてしまった、あの頃の自分が映っていた。
「どういうことだ…、オイ。」
愕然とするモモの後ろで、ローが衝撃から立ち直り呟く。
「うわァ、マジか…。あの薬、本物だったのかよ。」
「薬…? シャチ、そりゃァどういう意味だ。」
事情を知っているような口ぶりをしたシャチを、射抜くように睨む。
「いや…、さっきサクヤがモモが飲んだ茶に薬を入れたんですよ。秘薬だ、とか言って。」
「秘薬?」
「飲むと十数年若返るって。オレもシャチも本気にしなかったんだけど…。」
シャチとコハク、それぞれから経緯を聞いたローは、頭痛に眉根を寄せた。
つまり、モモは得体の知れない薬を飲み、その結果、子供になってしまったと?
彼女の姿は、まだ年端もない…コハクと同じ年頃の少女と化していた。
ああ、どうして彼女はいつも、自分からトラブルに巻き込まれるのだろうか。
小言はたくさん言いたいけど、とりあえず今は…。
「オイ、シャチ。ガキ用の浴衣を今すぐ持って来い。」
子供の姿とはいえ、彼女の肌を人目に晒したくない。