第9章 裏切り
「ローはね、冷酷な男よ。女なんて利用価値のある道具か、欲望の捌け口くらいにしか思ってない最低なヤツ。」
一時とはいえ、男女の仲だったからわかる。
愛して、愛される。
ローはそんな甘ったるい関係を求めない。
『恋人』になることによって、どのくらい利用できるか。
もしくは、性欲を満たす、ただの道具か。
「でも、あなたにとっては、そうじゃないんじゃないかしら。」
モモはメルディアからの指摘に、ローに貰った優しさを次々と思い出した。
『俺の女になれ。』
思えばあれは、船で唯一女性であった自分に、危険が及ばないための策だった。
『汚ねェ手で、俺の女に触るんじゃねェよ。』
逃げ出すように船を去ったのに、彼は当たり前ように助けに来てくれた。
『モモ、選べ。海軍に囚われるのと、俺たちに囚われるの。どちらがいい?』
海賊になりたくない、と言った自分のために、そんな問い方で居場所を作ってくれた。
『ハァ…、心配させやがって。』
クラゲに刺されそうだった自分を、安心した様子で心配してくれた。
身代わりに彼が刺されてしまったのに。
『何があっても守ってやる。海軍だろうが、海賊だろうが、お前を渡すつもりはねェ。だから、俺を信用しろ。』
心が震えた。どうして彼はこんなにも優しいのだろう。わたしは自分のことを、なにひとつ言えていないのに…。
『ようやく聞けたな、お前の声。もっと呼べ、もっと聞かせろ…。』
言葉を発せるようになった自分を、誰よりも喜んでくれた。わたし自身よりも。
『お前の気持ちが俺に向くまで、と待った俺がバカだった。』
いつも優しい彼が、初めて見せた恐ろしい姿。
でもそれも、先に傷つけたのは、わたしだったよね。
モモの中にいる、トラファルガー・ローという男は、メルディアの言うような人ではない。
いつだって、優しい人だった。
もし、本当にメルディアの言うことが正しいのなら。
本当にローが、そんなふうに想ってくれていたのなら。
ねえ、ロー。
わたし、ずっとあなたのこと、勘違いしていたの?