第9章 裏切り
「…わかったみたいね。」
表情から、モモが全てを理解したことを悟った。
「なら、わかるでしょう? ローは絶対あなたを助けに来るって。」
メルディアの言うとおりだ。
ローは、必ず来る。
どんなに危険でも、来てしまう。
「メル、お願い…。やめて。わたし、ここにいるから。」
ずっといる。
アイフリードの望むようにする。
だから、彼だけは傷つけないで。
「ゴメンね。私は今、彼の望みを叶えるためだけに生きてるの。」
話は終わったか、と言うようにアイフリードはモモの髪をさらに引っ張る。
「俺の望みは、とりあえずあの小僧をぶっ殺すことだ。セイレーン、お前の能力のことは後々調べるとして、まずはエサになってもらうぞ。」
アイフリードは無慈悲に笑うと、スルリと手を離した。
「…うッ」
解放された頭部が床に落ちる。
「さて、そろそろあの小僧がこちらに向かってくる頃か。」
アイフリードは立ち上がり、愛刀のサーベルを携える。
「あの小僧の首は、コレで跳ねなければ気が済まねえ。メルディア、セイレーンを連れて来い。」
そう言うと、アイフリードはズカズカと大股に部屋を出ていく。
メルディアはモモの腕を取ると、グイッと引っ張った。
「さあ、立って。もう立てるくらいには回復したでしょう?」
確かに、時間が経ったおかげで、薬による身体の拘束はずいぶん緩くなっていた。
(これなら、逃げ出せる…--)
「モモ、逃げ出そうとか考えないでね。」
心の中を読まれているかのようなタイミングでメルディアが鋭く言った。
「もし逃げれば、…撃つわ。」
カチャリ、という音と共に背中に固い感触が伝わる。
大きめの片手銃。
「あなたを殺すことは出来ないけど、動けなくすることくらい、出来るのよ。」
例えば、足を撃ち抜くとか。
メルディアの冷たい言いように、本気であることがひしひしと伝わってくる。
「お願い、モモ。私にあなたを撃たせないで。…友達でしょう?」
友達。
先ほどあんなに心躍った言葉が、今はこんなにも悲しい。
結局、モモは素直に立ち上がり、メルディアに銃を突きつけられながら、アイフリードの後に続いた。