第44章 剣と秘薬
浴場から出てきた2人は、湯上がりのようでまだ髪が濡れていた。
「母さん、ただいま。」
コハクはなぜか疲れた様子で歩くモモに声を掛ける。
「コハク! 戻ってきていたのね。お帰りなさい。」
「うん、ついさっきね。…って母さん、顔赤くないか?」
「え…ッ」
モモの白い肌は、普段とは比べものにならないほど赤い。
しかし、それを指摘したとたん、モモはあわあわと慌てはじめた。
「その…これは…ッ、長湯しちゃって! のぼせちゃったのかしら!」
「……?」
別に変なことじゃないのに、なんだか言い訳がましい。
不思議に思って、コハクは首を傾げる。
ローはというと、そんなモモの様子を見て、おかしそうに口元を歪ませている。
「あぁあ暑いわね、本当! 夏島って、本当に暑い!」
そう言って汗を滲ませたモモは、円卓の上に置かれた湯飲みに目を向ける。
湯飲みの中には冷たそうなお茶。
風呂上がりな上、人には言えない行為のせいで喉がカラカラだ。
「これ、誰のかしら。ちょっと貰うわね。」
「え、どれ?」
なんのことを言われたのかとモモの手元に視線を向けた瞬間、コハクは目を剥いた。
モモが持っているのは、先ほどの冷茶だった。
そう、サクヤが怪しげな液体を入れた、あの冷茶。
「ちょ…ッ、母さん! それ、飲むな!」
慌てて声を荒げたが、時すでに遅し。
モモはひと息に冷茶を飲み干してしまう。
「ぷはぁ…。あ、ごめんね、コハク。飲んじゃダメだった?」
すっかり空になった湯飲みを見て、コハクは青ざめる。
「ダメだよ! すぐ吐いて!」
「え、吐い…?」
てっきりコハクのお茶を横取りしてしまったのかと思っていたモモは、訳のわからない指示に目を白黒させる。
「いいから、早く!」
さあ早く! と詰め寄るコハクに、今度はモモが慌てた。
「ちょっと待って、コハク。いったいどうしたの……あれ?」
ひとまず宥めようとした時、モモは異変に気がついた。
なんだか、身体が…関節が痛い。