第44章 剣と秘薬
「ひ…ぇ…ッ」
自分のおかれた状況を確認したモモは、声にならない声を上げた。
「は、離して…!」
動揺のあまり、手足をバタつかせてもがく。
「オイ、暴れんな。」
手を離したら最後、モモは転んで湯の中に沈むだろう。
モモのパターンを熟知したローは、手を離すことはせず、さらにしっかり抱え込んだ。
「待っ…ッ、どこ触って…!」
言われて、自分の手が彼女の柔らかな膨らみに触れていることに気がつく。
「お前が暴れるからだろうが。」
あくまで不可抗力。
わざとやったと思われるのは心外である。
「いいから、離してったら!」
「……。」
わざとではないが、過剰に嫌がる彼女にローの中の執着心がムクムクと大きくなる。
「ロー、聞いているの!?」
一向に言うことを聞いてくれないローに、モモは焦れて叫んだ。
「聞いちゃいるが、そもそもなぜ離さなきゃならねェ。」
「……は?」
なぜって…。
いや、当たり前でしょう?
「お前は俺の女だ。見ようが触れようが、俺の好きにする。」
「な…ッ」
なんだその俺様発言!
ああ、違う。
ローはもともとこういう性格だった。
彼の性格はよく理解しているつもりだ。
だから、この先の展開も想像がついてしまう。
「ねえ…まさか、変なこと考えてないよね?」
手で胸元を隠しながら、モモは冷や汗を垂らして尋ねる。
「変なことだと? 例えば?」
わざとらしく尋ね返すローが憎らしい。
本当にわからないはずがないのだ。
だって、口元が意地悪く笑っている。
「考えてないならいいのよ。…わたし、もう上がりたいの。」
この嫌な予感が的中する前に、さっさとみんなのところへ帰りたかった。
「まだ入ったばかりだろう。遠慮すんなよ。」
「あ…ッ」
逃げ腰になっていたモモを、ローは強引に抱き寄せた。
引き締まった身体に抱き込まれ、温泉とは別の熱を感じる。
(ああ、もう…ッ)
予想が的中しそうな予感に駆られ、モモは目眩のような錯覚を覚えた。